ロシア外交官の北朝鮮「トロッコ脱出」が、中国で話題の理由
● ロシア外交官がトロッコで北朝鮮を脱出 2月25日、北朝鮮から出国するロシア外交官一家とされる映像が世界へ衝撃を与えた。その一家が手押しトロッコを使って脱出したからだ。さながら映画の1シーンのようだった。 【この記事の画像を見る】 この映像を見た北朝鮮研究者やウオッチャーからは、「なぜか安心した」「ほのぼのさせられた」など、普段とは異なる感想も聞かれた。 確かにトロッコ脱出したウラジスラフ・ソロキン3等書記官ら家族8人の映像は、どこか楽しげに見え、悲壮感は感じさせない。ここ最近、北朝鮮からほのぼのさせるようなニュースは皆無だったので、研究者らも余計に印象深く感じたようだ。 外交官は、どの国でも優遇される存在である。北朝鮮も同様だ。しかし、今回のロシア外交官の北朝鮮脱出によって、北朝鮮国内で食糧や医薬品、子ども向けの衣類までもが極度に不足していることが露呈した。 ロシアの外交官は、北朝鮮国内で最も物資が豊富に集まり、恵まれているはずの平壌(ピョンヤン)に駐在している。にもかかわらず脱出しなければならないほど、北朝鮮の生活環境は悪化している。外交官でこの状況なら、庶民の生活はさらに厳しいことは容易に想像できる。
● 国内封鎖中の北朝鮮、脱出の実態 北朝鮮は昨年1月22日に外国人観光客の受け入れを全面停止し、2月上旬に空路の定期便も停止して国境封鎖へ入った。 その後、3月、12月、さらに今年の3月にも平壌駐在の各国外交官や中国人在住者、国際機関の関係者などが相次いで脱出している。北朝鮮のロシア大使館は1日、公式フェイスブックページで、無人となった各国大使館の写真とともに、現在北朝鮮に残る外国人は290人ほどだと明かしている。 脱出した多くの外交官や外国人駐在員は、平壌から北上し、中国丹東へ陸路で出国するルートを使っている。しかし、冒頭取り上げたトロッコ脱出したロシア外交官一家は、日本海側を北上し、ロシア・ハサンへ出国している。母国だから当然だと思うかもしれないが、問題は出国までにかかった時間だ。平壌から32時間は国内列車に乗り、さらにバスで2時間かけて移動したうえで、トロッコを手押しで1時間動かしてロシアへ出国したとロシア大使館は伝えている。 仮に中国への出国であれば、平壌から新義州まで約230km、自動車なら3時間ほどで中朝国境までたどり着ける。現在、中国は入国地で2週間の強制隔離となるので、丹東で隔離処置を受けることになる。 ロシアと中国は、対米では緊密に連帯しているように見えるが、実は米国以外の問題ではあまり親密とはいえない。そのため、ロシアとしては、北朝鮮国内の移動時間が長くなっても、自国の外交官を中国で隔離する事態は回避したかったようだ。 ロシア外務省は、3等書記官の3歳の娘の体調に問題があったので、身体的な負担を減らすため、ロシアへ出国したと説明しているが、32時間も普通席しかないローカル線で移動させるほうが子どもへの負担は大きいだろう。