コロナ特措法成立は消費増税のプロセスとそっくり!構造的な欠陥とは
新型コロナ対策を強化するため、国会で「感染症法」などが改正された。刑事罰が撤回されるなど、世論が納得できるようなプロセスをとったが、中途半端だといえる。また、コロナ対策の構造もプロセスも「消費増税」の時をほうふつとさせる。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人) 【この記事の画像を見る】 ● 現役・若者世代の失望と反発 新型コロナウイルス感染症対策を強化するための「新型インフルエンザ等対策特別措置法」と「感染症法」の改正案が国会で成立した。新型コロナ対策は、国民の「協力」をベースとしてきたが、今後は罰則を含めた「強制力」に比重を移すことになった。 「特措法」「感染症法」の改正に至った安倍晋三・菅義偉両政権の新型コロナ対策を振り返ると、「消費増税」に似ていると感じる。まず、新型コロナ対策が「高齢者を守るために、現役・若者世代に負担をかける」というところだ。 新型コロナは、現役・若者世代が重症化する確率が低いのが特徴だ。重症者の約74%、死亡者の約94%が60代以上の高齢者である(新型コロナウイルス感染症の国内発生動向 速報値 令和3年1月20日18時時点)。若い世代と、高齢者や基礎疾患がある人とでは、新型コロナウイルスは全く異なる顔を見せるため、対策が難しい(第248回)。 感染拡大防止のための「自粛」「休業」は、現役・若者世代にとっては自分自身を守るためというよりも、高い高齢者と基礎疾患がある人を守るための「利他的な行動」だ。だが、「自粛」「休業」で自殺者や倒産が増えていて、現役・若者世代に失望と反発が広がり、彼らの行動制限が難しくなっている。
● コロナ対策の不満は消費増税の問題と似ている この現役・若者世代の不満が「消費増税」と一つめの類似点だ。野田佳彦政権時に決まり、安倍政権で施行された5%から10%への消費増税は、財政赤字の拡大と社会保障費の増大への対応だった。だが、財政赤字は、基本的に高齢者以上の世代に責任があるのに、社会保障費は高齢者に支払われるものだ。現役世代への還元はなかった。 自分が払った増税分は高齢者が使ってしまう…。この不満が、現役・若者世代の強い増税への抵抗感となり、財政再建を困難にしてきた(第133回)。 要するに、現役・若者世代が高齢者のために重い負担を背負うことが不満となり、必要な政策の円滑な遂行が妨げられている。それが、新型コロナ対策と消費増税の類似点だ。 ● 国民に負担を強いるだけの解決策 また、政府がより本質的で構造的な問題に切り込めず、国民に負担を強いるしか解決策が見いだせないことが、二つめの類似点だ。 私は、「緊急事態宣言」の発令以前にやるべき対策があったと批判してきた(第259回)。欧米の感染者数は日本の約100倍を超えるが医療崩壊は起きていない。ところが、日本は感染者数が欧米に比べて少なく、人口当たりの病床数が群を抜いて世界で一番多いにもかかわらず、医療崩壊の危機が騒がれている。その根本の原因は、医療行政に構造的な問題があると私は訴えてきた。 中国や欧米では「重症者を一手に引き受ける病院」が存在し、人材や機材などのリソースを集約して対応している。一方、日本は、新型コロナの重症医療がバラバラに分散化しているのだ。 日本でも、海外の事例のように、設備の整った大病院か、思い切って重症者専用の巨大病院を建設し、新型コロナの治療の経験を積み、治療法を理解した人を集約化して、集中的に治療に専念する体制を組むほうが、重症者の救命率を上げることが可能なのではないだろうか(第262回)。 だが、政府はこの状況になっても、医療体制、医療行政の構造問題を解決しようとしてこなかった。医学界と厚労省の「縦割り」と「既得権」を前にして、手を出せなかったのかもしれない。 現場から医療崩壊の危機が叫ばれても、大胆に医療体制を変えられない。現場の声を政策立案の場に届けるパイプもない。現行の感染症医療の行政ルールの枠内でしか動けず、国民の行動変容をひたすら求め続けるしかなかったといえる(第265回)。 これは財政赤字拡大の本質的な問題である社会保障、医療、建設、道路、農業などさまざまな既得権益と各省庁の縦割り行政の構造的な問題に手を付けられず、「消費増税」という国民負担の増加によって解決するしか手がないことと、よく似ていると思うのだ。