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コロナ禍で狭まる人間関係の中、必要になってくる「絵本の力」<長田弘・いせひでこ絵本原画展>

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HARBOR BUSINESS Online

長田弘さんといせひでこさんの絵本原画展が開催中

 9月12日現在、国内での新型コロナウィルス感染者は6万7865人、死者は1279人となりました(厚生労働省発表より)。換気の悪い密閉空間・人が密集する場所・間近で会話や発声をする密接場面を避けるようにとの「お願い」が繰り返され、身動きの取れない日々が続いています。  ライブハウスや劇場、映画館、美術館、博物館など、人が多く集まる場所は休業やイベントの縮小・中止を余儀なくされ、廃業するところも増えてきました。そんな苦境に立たされながらも、人々に愛されながらこの混乱に立ち向かっている小さな美術館があります。  長野県安曇野市の森の中にある「絵本美術館 森のおうち」は、絵本作家のいせひでこさんが絵本を上梓するたび、最初に原画展を行う美術館です。2020年10月6日(火)までは「~あなたは言葉を信じていますか~」というタイトルで、いせひでこさんと詩人・長田弘さんの絵本原画展が行われています。  この展覧会では、2020年4月に発表された『風のことば 空のことば 語りかける辞典』をはじめ、『最初の質問』『幼い子は微笑む』(すべて講談社)などの原画が展示されています。すべて長田弘さんが詩を書き、いせひでこさんが絵を描いた絵本の原画です。8月1日に同美術館で行われたトークショーの中で、いせひでこさんは長田さんのことや絵本についてこう語りました(以下、いせさんのトークショーより)。

長田さんが亡くなったことは、自分の言葉を失ったかのようだった

 長田さんと最初に絵本を作ったのは『最初の質問』で、2011年の東日本大震災の直後に出版社からお話をいただきました。この詩の最後のフレーズが「時代は言葉をないがしろにしている。あなたは言葉を信じていますか」というもので、これは長田さんからの宿題だと私は思いました。長田さんは福島の出身でした。  むずかしい詩で、1年間は絵が描けずに、詩を壁に貼って毎日眺めては自分に質問をしていました。長田さんからの問いを読みながら、自分のはじまりの記憶をずっとたどっていきました。すると、函館で雪解けの水たまりに空を見つけた、5歳の記憶にたどりつきました。空は上にあるとは限らない。水たまりに底なしに広がる空に、こわいほどの無限を感じたのです。  その5歳の記憶の引き出しと、今まで描いてきた膨大な量のスケッチの、手と目の記憶が結びついて、この絵本の絵が描けました。絵本ができあがって、長田さんが「言葉という楽器と絵という楽器の、アンサンブルだね」と言ってくださったことがとても嬉しかったです。  私は長田さんには4回しかお会いしたことがないのですが、そのうちの2回は対談でした。言葉を通していっぱい会っているし、もともと制作中に作家さんとは会いません。ご本人にはそんなに会わなくてもいいやと思っていました。ところが、2冊目の『幼い子は微笑む』のエスキース(下絵)を1枚も見ないうちに、長田さんは亡くなってしまいました。  そのころ、詩人と自分の境目がなくなるくらいに長田さんの詩と向き合っていましたから、長田さんが亡くなったことは自分の言葉を失ったかのようでした。

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