名門バルサの「ぎりぎり」戦術 相手も困惑…敵が攻略も際立った絶技の長短【コラム】
デメリットから2失点も…たぶんこれで正解
ただ、相手も時間の経過とともにバルセロナのハイラインに慣れてくる。ドルトムントの2点目はグロスがハイラインの背後に抜け出し、飛び出したGKペーニャのタックルの前にギラシにパス。ギラシが無人のゴールにシュートしている。グロスへパスが出た瞬間、ギラシはオフサイドポジションに置かれていたが、パスはギラシに出ていないので関係がない。バルセロナはよくこの形で失点している。相手の1人ないし2人をオフサイドポジションにしているのでラインがフリーズしていて、2列目からの飛び出しにやられてしまうのだ。 後方からの飛び出しとサイドチェンジはハイライン攻略の常套手段だ。ドルトムントはすっかりコツを掴んだようで、同点にした後半33分以降は押し込み続ける。ハイラインを維持できなくなったバルセロナは防戦に回り、奪ったあともパスミスが増えて試合をコントロールできなくなった。 しかし、好事魔多し。攻め込んでいたドルトムントはCKのクリアを拾ってつなごうとしてパスミス。バルセロナは一気にカウンターに転じて決勝の3点目を決めている。ハイラインのデメリットから2点を失い試合も失いかけたが、結局のところ3得点を奪って勝利。際どいながらも収支は合っているので、たぶんこれで正解なのかもしれない。 [著者プロフィール] 西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。
西部謙司 / Kenji Nishibe