育成年代の“優れた選手”を見分ける正解は? 育成大国ドイツの評価基準とスカウティング事情
サッカーの育成において、どのように選手を育てるのかはいうまでもなく重要な要素だが、その前段階で、どのような選手を選ぶのかも常に議論の絶えない大切な観点だ。世界有数のサッカー大国の一つであり、育成においても常にトライ&エラーを繰り返してきたドイツではどのような子どもたちを“優れた選手”として評価し、スカウティングしているのだろう? (文=中野吉之伴、写真=Getty Images)
「はっきり言おう…」タレント発掘のエキスパートの見解
「類いまれな才能を秘めた」とされる逸材にメディアがこぞって注目する光景をよく見かけないだろうか。大会での活躍を取り上げられ、「天才児」「〇〇2世」なんて異名がつけられる。 しかし、育成年代での活躍がそのまま将来を約束するわけではない。皆さんの周りにも「元天才児」「元〇〇2世」がたくさんいないだろうか? タレント発掘のエキスパートとして国内外から高い評価を受けているドイツ・カイザースラウテルン大学教授のアルネ・ギューリッヒが次のように指摘していたことがある。 「はっきり言おう。早い段階でタレントを見分けるすべはない。11歳の才能がプロ選手になれるかどうか? それを見分けるのは不可能だと言わざるを得ない。学術的な見解はないんだ」 さらにギューリッヒは続ける。 「少年期の子どもたちは成長スピードがそれぞれまったく違うし、成長過程においてさまざまな影響でその成長スピードと成長方向に変化が起こる。良くも悪くも、だ。ある指導者の一言がきっかけに、目覚ましく開花することもあれば、他の人からしたらなんでもないちょっとした出来事が引き金となって、抜け出すことのできない沼に沈んでしまうこともある。育成期はそうした“きっかけ”や“引き金”となる変数値があまりに多種多様なため、『どんな選手にどんな可能性が秘められていて、どんな選手へと成長するのか』を予見することは限りなく難しいと受け止められている」
ドイツで「セレクション」を重要視しない理由
ではそうした事実がある中で、サッカー大国の一つであるドイツではどのように少年期の選手を評価し、スカウティングしているのだろう? まず基本的なところでドイツでは選手を集めての「セレクション」という形態はあまり取られていない。セレクション自体は行われているし、そこでチャンスを手にする選手もいるが、基本的には各クラブは普段からそれぞれの地方における優れた選手をスカウティングしている。 初めて会う者同士で行われるゲーム形式で表面的に見られる優越がそのまま、それぞれの選手の査定になってしまうのはもったいない。そもそも選手の良さというのは“一目でわかるもの”と、“一目ではわからないもの”があるはずなのだ。 さらにいえば短い時間で現時点でのプレー能力だけがチェックされるべきではない。例えば、選手がどんな視点とアイデアでそれぞれのプレーをしているのかを探る機会がないままでは、誰が自分たちのクラブのフィロソフィーにふさわしい選手かどうかを見極めることも難しい。そして“一目ではわからない”ところの価値を探すためにはそれなりの時間を費やす必要があるはずだ。 どんな家庭環境で育ってきているのか、学校ではどんな生活を送っているのか、どんな性格で、どんな態度を練習中や試合中に取るのか、どんな吸収力を持っているのか。 そのため、ブンデスリーガの育成アカデミーでは自前のスカウティングスタッフを持っていたり、トレセンスタッフとの協力で情報を仕入れたりして、近郊の街クラブで高く評価されている選手をチームのトレーニングに招待するという形態を取るクラブが多いと聞いている。 何度か一緒にトレーニングをしてもらい、その中でどんなプレーをするのか、こちらの声掛けにどんな反応を見せるのか、1度目のトレーニングと2度目のトレーニングでどんな成長をしているのかなどをチェックした上で、「うちのクラブに間違いなく合うだろう」という評価が指導者・スタッフ内で一致したら、次の移籍期間(年に2度、夏と冬。プロクラブの育成アカデミーは例外的に所属クラブを移さないまま1年間出場資格を持つ「ゲストプレーヤー」を迎えることもできる)でオファーを出すという流れが一般的だ。