【箱根駅伝の一番星】秘めたる闘志を解き放つ東海大・名取燎太。再生工場から最後の箱根路へ
陸マガの箱根駅伝カウントダウン企画「箱根駅伝の一番星」は出場20校の注目選手を紹介。2年ぶりの覇権奪回を狙う東海大。往路の主要区間が予想される三本柱の一人、名取燎太(4年)は必ずしも順調とはいえなかった4年分の思いを込めて、快走を誓う。 【箱根駅伝2021】東海大学 本戦エントリー16選手名鑑
攻めの走りをした結果
駒大と東海大のアンカー決戦となった11月の全日本大学駅伝。東海大は残り1.1kmで振り切られ、連覇を果たすことはできなかったが、アンカー・名取燎太(4年)の激走は見る者の心を打った。約18kmに及ぶ競り合いのなか、名取は学生長距離界のエースである田澤廉(2年)を引っ張り続けた。後ろでスパートの機をうかがう選択肢もあったはずだが、「前を譲る気はなかった」と、田澤に対し、4年生の意地を背中で示したのだった。 「勝ち切れなかったことは悔しいですが、攻めの走りをした結果です」 全日本の後は、最後の箱根駅伝に向けて切り替えた。
佐久長聖高(長野)では高校駅伝1区、都道府県駅伝5区で区間賞を獲得。同世代では駅伝で無類の強さを誇った。しかし、大学入学後は故障が続き、下級生時には学生三大駅伝を走ることすらできなかった。 そこで、2年時の11月からはポイント練習を抜き、ジョグを徹底した。両角速監督は、名取の復活プランを“再生工場”と表現。「継続して練習することが、故障しないための一番の近道」との考えから、ゆっくりとしたペースでも、とにかく走ることで脚をつくった。両角監督も一緒に走ったり、ウォーキングをしたり。当時52歳の指揮官が、名取と共に16kmを走り切ることもあった。 「一時はやる気をなくしかけたこともありましたが、3年目の箱根を意識するよう、両角先生に励まされ、やるしかないという思いでした」 名取は前を向き、目標を持ってトレーニングを積んだ。
言葉よりも背中でけん引
勝負の3年目は関東インカレのハーフマラソンで5位に入賞するなど、春から結果を残し、全日本のアンカーで学生駅伝デビュー。東海大を16年ぶりの優勝に導いた功績が評価され、ルカ・ムセンビ(東京国際大)に次ぐ区間2位ながらMVPに選ばれた。 その後、12月にアキレス腱を痛め、不安を抱えた状態で箱根に臨んだが、4区で区間2位と好走した。ただ、区間新をマークした吉田祐也(青学大、現・GMOアスリーツ)には1分07秒差をつけられ、悔しさを味わった。 今大会は花の2区か、前回と同じ4区を望んでいる。 「2区を走ってみたい気持ちはありますし、4区でリベンジしたい思いもあります。2区ならば1時間6分台が1つの目標。4区なら、吉田さんを超えるタイムで区間賞を取りたい」 前回2区を務めた主将の塩澤稀夕(4年)は、「ベストオーダーを組むなら、名取が2区だと思っていますし、走ってほしい」と信頼を寄せる。 名取と伊賀白鳳高(三重)出身の塩澤、九州学院高(熊本)出身の西田壮志は、2016年の高校駅伝1区で1~3位を占め、そろって東海大に進学。刺激し合いながら競技力を向上させ、今ではチームの三本柱に。4年生として、それぞれの個性を生かした役割があるが、「名取は言葉に出すよりも、背中でけん引している」(西田)という。 穏やかな物腰にも、芯の強さを感じさせる名取。内に秘めた闘志を解き放ち、チームを2年ぶりの頂点へと導く。 なとり・りょうた◎1998年7月21日、長野県生まれ。169cm・56kg、O型。富士見中→佐久長聖高(長野)。自己ベストは5000m13分52秒61(2016年)、28分10秒51(20年)、ハーフ1時間02分44秒(19年)。高3時の高校駅伝で1区区間賞を獲得。大学3年時の全日本で三大駅伝デビューを飾り、8区区間2位の快走で優勝に貢献した。同年度の箱根では4区2位、今年度の全日本は8区区間3位と大黒柱にふさわしい実績を残してきた。 文/石井安里
陸上競技マガジン編集部