"私はそう欲張りなアイドル"! YOASOBIとG2P-Japanの意外(?)な関係【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■YOASOBIの「アイドル」考 この連載コラムでも以前に紹介したことがあるが、2023年、私のラボの人数は倍増し、その約半数が留学生、という状況になった(33話)。その夏のある日、なにかにかこつけて、ラボの一室で学生たちとパーティーをしていた。そこではYouTubeで、J-POPヒット曲メドレーかなにかをBGMに流していた。 そのとき、YOASOBIの「アイドル」が流れた。私は当時この曲を知らなかったが、留学生たちはみんな知っていた。そして彼らは、この曲が主題歌の、『推しの子』というアニメのことも知っていた。 話は少し逸れるが、女性ヴォーカルが歌う歌は「主観的」であり、歌っている本人が主役のように聴こえる歌が多いと思う。安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」や宇多田ヒカルの「Automatic」などが、自身のイメージや考えを主観的に反映させた歌であることがその典型である。 それに対してYOASOBIとは、「小説を音楽にする」というコンセプトでできた、ikuraとAyaseのふたりによるユニットである。おそらくこのコンセプトによって、YOASOBIの歌の歌詞には、「本の代弁」という「客観性」が生まれる。そのため、アイドルについて歌うこの曲についても、「『歌っているikuraがアイドル』という暗喩」による「主観性」が生まれづらい。 YOASOBIの紅白のステージに話を戻すと、紅白に出演しているアーティストたちこそがアイドルなので、これは「彼らを主役とする歌」であり、それを演出するYOASOBIは裏方、と見ることもできる。そういうこの歌の「客観性」、あるいは「『アイドル』について歌うステージ」という一種のメタ構造が、紅白に参加するアーティストたちに、YOASOBIのステージの「バックダンサー」として参加することを許容させたのではないだろうか。 さらにこの年の紅白には、韓国のアーティストも複数参加していた。「参加するアーティストたちが、YOASOBIのこの曲の『バックダンサー』として参加する」ことによって、J-POPだけではなく、複数のK-POPのアーティストをも引き連れてのステージとなった。これによって見た目は、「日本のミュージックシーンの集大成」ではなく、「(東)アジアのミュージックシーンの集大成」のような構図となったともいえる。 そのようなもろもろも含めて、すごいステージだと素人ながらに唸ってしまったわけだが、このステージはいったい誰が、いつ、どのようなタイミングで、どこからどうやって構想したのだろうか? これは私感だが、YOASOBIが「アイドル」という曲を作った時点、あるいは発表した時点でこのステージを構想していた、ということはさすがにないだろう。しかし、「アイドル」という曲名が、このステージを生み出すのに最適だったことは、上記の理由からも裏付けられると思っている。そして、この曲のテレビパフォーマンスを紅白のステージで初披露した、ということもおそらく意図的だ。 それでは、紅白に出演するアーティストやこの演出は、どのようにして構築されていったのか? また、このステージの動員や、この曲の人気につながった背景には、アニメ『推しの子』の人気もあるのか? いったいどれが事前に用意されたものだったのか? あるいは、その場にたまたまそろっていたピースの組み合わせから生み出されたものなのか?