株式市場はスイートスポットに:消費低迷下で進む株高の持続性は。。。
7月9日の日経平均株価は、一時前日比900円を超える大幅高となり、過去最高値を更新した。当日に日本の株価を大きく動かす新たな材料はなかったが、銘柄別の動きを見ると、エヌビディアなど米半導体株上昇の影響がうかがえた。さらにその背景にあるマクロ環境の要因を見ると、先週末に公表された6月分米雇用統計が労働需給のひっ迫が緩和していることを裏付けたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まったことが、ハイテク関連を中心に米株を押し上げ、その影響が日本にも及んだ。 米国経済には、利下げを正当化する程度に適度な成長鈍化がみられる一方、景気後退を懸念させるほど弱い材料は出てきていない。これは、利下げ観測から株価が上昇しやすい絶妙の状況であり、この点から株式市場はスイートスポットに入ったと言える。 他方、日本では、前日の統計で賃金の上振れが確認されたことに加え、日本銀行の支店長会議で、中小企業の賃上げに広がりが見られることが報告された(コラム「日銀支店長会議:賃金上昇に広がりは見られるが物価の先行きはなお不確実」、2024年7月8日)。その結果、「賃金と物価の好循環」への期待、リフレ期待が強まった。 このように、米国の利下げ期待、経済のソフトランディング期待と日本のリフレ期待が重なったことで、9日の日本株は大きく上昇したと言える。 しかし、株高を支えるこうした日米双方の要因が今後も続くかどうかについては、不確実性が高いのではないか。米国景気の減速がさらに進めば、景気後退観測が広がり、米国株には逆風となってしまう。株式市場のスイートスポットを支える絶妙な成長鈍化は長くは続かず、スイートスポットは過渡的なもので終わるのではないか。さらに、FRBによる9月の利下げ観測が確信されるようになれば、為替市場での円安傾向が円高傾向に転じるきっかけとなり、それは日本株の逆風となる。 他方日本では、株高を支えている物価高観測は、個人消費をかなり悪化させている。株高下での景気減速という2極化が生じているのである。これも持続的なものとは言えないのではないか。 賃金上昇に広がりは見えても、賃金から物価への転嫁は数字では明確に確認できていない(コラム「日銀支店長会議:賃金上昇に広がりは見られるが物価の先行きはなお不確実」、2024年7月8日)。物価高懸念から個人消費が弱い状況では、賃金を価格に転嫁する動きは広がりをみせないのではないか。その結果、「賃金と物価の好循環」への期待はいずれ失望に変わる可能性があるだろう。 米国景気の減速がもう一段進み、来年の景気後退のリスクが意識されるか、あるいは9月の利下げ観測が確信されることで円安の流れが円高に転じれば、日本株の上昇傾向にも歯止めがかかってくるだろう。そうした転換点は、遅くとも9月中には生じるものと現時点では見ておきたい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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