『辰巳』小路紘史監督 自主制作の自由度がもたらすものとは【Director’s Interview Vol.423】
役者に合わせて脚本を変える
Q:自主制作とはいえ、実際にプロの役者さんが出演されています。皆さんオーディションで選ばれたのでしょうか。 小路:半年くらいかけて全てオーディションで選ばせていただきました。そこは妥協せずに出来たと思います。遠藤さんも森田さんも含めて、皆オーディションに来てくださった方々です。オーディションにはタレントさんのような方も来てくださいました。オーディションでは、その実力だけで判断できるのが良いところですね。 Q:オーディションではどんな基準で選ばれるのでしょうか。 小路:基準はあるにはあるのですが、言葉にするのは難しいですね。直感で「この人とやりたい」と思う人と出会えるかどうか。誰かを提案されるよりも、初めて会ったとしても「この人と映画を作りたい!」と思わせてくれる役者とやりたいのだと思います。 Q:脚本で思い描いたキャラクターと照合されるのでしょうか。 小路:一応やりますが、一致する方ってなかなか来ない。なので、役者に合わせてキャラクターを変える方向でやりました。遠藤さんが演じた辰巳も、元々の年齢設定はもう少し上でしたが、遠藤さんくらいの年齢にして脚本を変えていく方が可能性は高かった。制作の自由度とは、まさにそういうところだと思います。 Q:最初に決めた世界観に合わせて作っているのかと思っていました。ここまでフレキシブルだとは意外でした。 小路:世界観は一応あるのですが、自由に作った方がより良いものになるという感覚があります。カメラマンの山本と一緒に作り込んでいって、その中にあるものの自由度を高くするイメージです。その要素の一つとして役者があるのだと思います。
妥協しないロケハン
Q:廃車場や立体駐車場、アジトとなる中華料理屋など、その場所が魅力的ですが、どのようにしてロケ地を見つけたのでしょうか。 小路:オーディションと並行してロケハンも半年ほど行いました。いわゆる制作部が探してきてくれたロケ地から選ぶのではなく、自分で探しに行きました。ネットで調べたり人伝てに聞いたりして探し、自分が満足できる場所を最後までこだわれました。商業だと見つかるまで探すということは出来ず、最後はどこかで妥協しなければならない。ドラマをやらせてもらった経験から、それはすごく感じていたので、今回は自主制作だからこだわろうと。 Q:ロケハンにはカメラマンの山本さんも同行されたのでしょうか。 小路:カメラマンの山本とプロデューサーの鈴木と一緒に常に3人で回りました。山本も「こういうところで撮りたい」という意志が強いので、一緒にロケハン出来たことがクオリティに繋がったと思います。 Q:日本じゃない感覚があったという感想も多いですが、どんな基準でロケ地を選んだのでしょうか。 小路:新しくないところが良いなと。どこか汚れていて薄汚いところの方が、この世界観には合うのではと思っていました。この映画はいわゆるメインストリートを歩いていない人たちの話なので、ロケ地もキャラクターに合わせて選びました。 Q:一度決まったロケ地が途中でNGになったこともあったそうですね。 小路:後藤の工場のロケ地が決まった次の日に「こんな野蛮な映画には貸せない」と言われてNGになりました(笑)。ロケ地探しは本当に大変でしたね。 その後お借りできたロケ地は全て快く貸してくださり、「何でもやっていい」と言っていただき、日数の制限もそれほどありませんでした。追加撮影も多かったのですが、それでも快く貸してくださいました。
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