プロ野球選手の4割が患っている!? 「腰椎分離症」のリスク&対処法を専門家が解説
早大スポーツ科学学術院の鳥居俊教授が、痛みが出る2つのパターンを解説
野球をしている成長期の子どもに多い怪我の1つに、腰椎分離症がある。分離症によって、椎間板が傷ついてすべり症や脊柱管が狭くなるなどの合併症や続発症が加わると、プレーに影響が出たり、長期離脱を強いられたりするケースがある。一方、「プロ野球選手の約4割が腰椎分離症を患っている」「痛みがなければ手術の必要はない」と指摘する専門家もいる。少年野球の子どもたちや指導者、保護者が知りたい腰椎分離症の症状や対処法をスポーツ障害の専門家が解説する。 【3分動画】成長につながるエッセンス凝縮…山本昌氏が語る“50歳現役”の作り方 腰椎分離症は、腰椎の後ろ側にある椎弓と呼ばれる部分に亀裂が入り、やがてそこで途切れてしまう怪我で、主に過度な運動や疲労の蓄積によって起きる。成長期の小学校高学年から中学生に多い。 腰に強いたわみがかかると、椎弓にひびが入って疲労骨折の状態になる。ただ、骨折にもかかわらず、ほとんどの場合で強い痛みなど特有の症状が出ない。そのまま腰に負荷をかけ続けると悪化して、椎弓が完全に切れてしまう。これが、腰椎分離症だ。驚くことに、成長期のスポーツ障害を専門とする早大スポーツ科学学術院の鳥居俊教授によると、プロ野球選手の4割近くが腰椎分離症を患っているという。 「極論を言うと、症状がなければ手術する必要はないんです」 腰椎分離症を患っても、症状が出ない選手が多い。痛みが出るのは主に2つのケースがある。1つは「分離すべり症」を起こした場合だ。分離すべり症とは、腰椎の後方部分の椎弓が両側とも途切れることで、椎間板にかかる負担が増え、椎間板も傷んでしまい、前方も支えられなくなった状態のこと。背骨の安定性が失われ、上下の骨にずれが生じる。そのため、腰に力が入りにくくなったり、神経が圧迫や刺激を受けてしびれや痛みを感じたりすることがある。
疲労骨折の段階なら動きながらでも完治、悪化すれば手術が必要
もう1つのケースが「関節ネズミ」。分離すべり症は起きていないものの、分離した椎弓の欠片が関節内でネズミのように動き回る。椎弓欠片が関節の間に挟まったり、神経を圧迫したりすることで、激痛を引き起こす場合がある。他にも割れた骨が他の骨と擦れてとげのように尖ると、神経を圧迫して坐骨神経痛をもたらすこともある。 鳥居教授は「分離症を起こした時点では痛みがなくても、しばらくたってから痛みや様々な症状が出る可能性があります。痛みが出たらコルセットを巻いて、練習や試合に参加しながら治療していくのか。それとも、一定期間練習を制限して治療に専念するのか。症状と治療のリスクを知った上で判断する必要があります」と話す。 腰椎分離症の前段階と言える疲労骨折であれば、コルセットを付けて腰への負荷を軽くすれば、体を動かしながらでも完治する。しかし、分離症まで悪化してしまうと、完全に治すためには手術せざるを得ない。 疲労骨折の状態でははっきりした痛みや症状に気付かないことが多い。また、普通のレントゲン撮影では発見が難しく、MRI検査が必要になる。腰を前後左右に曲げたり、反らしたりして、張りや違和感が1、2週間続く時は、分離症につながる疲労骨折の可能性がある。MRI検査を受けると、早期発見につながる。鳥居教授は「体の変化に早く気付いて、重症化する前に対応することが大事です」と訴える。 腰椎分離症は、痛みがなければプレーはできる。だが、いつ痛みが出るか分からない不安を持ちながら日々の練習や試合に臨むのは、プレーへの支障となりかねない。
川村虎大 / Kodai Kawamura