WWF「2050年に脱炭素、自エネ100%可能」
国際環境NGOのWWFジャパン(東京・港)は12月11日、2050年に温室効果ガスゼロを実現するためのエネルギーシナリオを発表した。人口減少や産業構造の変化によってエネルギー需要そのものが減少することもあり、2030年には石炭火力を廃止してCO2排出量50%減、2050年にはCO2排出量ゼロを実現できるという道筋を示した。(オルタナ副編集長=吉田広子) エネルギーシナリオを作成した槌屋治紀・システム技術研究所所長(工学博士)は「人口減少、産業構造の変化、効率向上によってエネルギー消費は縮小する。エネルギー需要が削減できれば、エネルギー供給の問題が小さくなり、無理なくCO2削減が実現できる」と説明。「2050年には、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、周囲熱など、100%自然エネルギーを電力と熱・燃料需要に供給できる」と続けた。 原子力発電については、再稼働が決定したり、適合性審査が完了したりしている3基(泊、東通、志賀、322万kW)のみが稼働し、2038年以降ゼロになると想定したが、「仮に原子力が稼働しなくても、その影響は大きくなく、自然エネでまかなえる」との考え方を示した。 WWFジャパンは「政府が2020年3月にパリ協定に再提出した国別削減目標(NDC)である『2030年26%削減』は、2050年にゼロを目指す道筋とは整合しない。すみやかに50%レベルに上げるべき」とし、削減目標の引き上げと、それを可能とする2030年エネルギーミックスの改定も提言している。 自然エネルギー100%社会で「2050年ゼロ」を実現するWWFエネルギーシナリオの考え方は次の通り(一部抜粋)。 ■石炭火力は2030年までに全廃止が可能 ・本シナリオのダイナミックシミュレーション結果では、現状の石炭火力を日本の10電力地域全域で2030年までに廃止しても、電力供給に問題がないことが分かった ・石炭全廃の穴埋めとしては、現状稼働率が35~50%以下である既設のガス火力の稼働率を60~70%程度に上げることでまかなえる ・ガス火力も段階的に廃止し、2050年には電力のみならずすべて自然エネルギー供給が可能となる ■自然エネルギーの電力に対する比率は、2030年に47.7%可能 ・10電力地域に存在する実際のガスと石油火力の設備容量を元に、石炭火力を使用せずに、想定した自然エネルギーと既設のガスと石油火力で、過不足がないか、全国842地点のAMEDAS2000標準気象データを用いて1時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを通年で行った ・その結果、現状の地域間連系線などのインフラを増強することなく、2030年に電力に占める自然エネルギーの割合は、風力と太陽光を中心に47.7%が可能と分かった ■省エネルギー量21.5% (2015年比)が可能 ・人口減少のため産業の活動が2050年にかけて80%に縮小し、途上国と競合する原材料の輸出はなくなる。代わりにIoT・AI(人工知能)情報機器、自動運転車、ロボットなどの輸出が150%に増大し、機械・情報産業は150%に成長する ・これによって人口減にもかかわらず、日本の経済成長率は維持され、GDPは増大する。その結果、2050年には最終エネルギー需要で見ると2015年比で約58%減少する ・その途上である2030年には、最終エネルギー需要は2015年比で21.5%減少する。これは政府長期見通しの10%減(2013年比正味)よりも多く省エネが可能であることを示す ■エネルギー起源CO2排出量2030年49%削減、2040年70%、2050年ゼロ ・このエネミックスの実現で、エネルギー起源CO2排出量は2030年に2013年比49%削減、2040年に70%削減、2050年ゼロが可能となる ・温室効果ガスの排出量でみた場合には、2030年45%削減、2040年68%削減、2050年ゼロとなる ・2030年49%の削減が可能となった背景には、2030年に石炭火力を全廃したことと、鉄鋼業の石炭使用を除いて、セメント業など産業における高熱用途には、石炭からガスとバイオマスへとシフトさせたことがあげられる。これらは、2050年ゼロを目指すには不可避なシフトである ・2030年代後半からは、余剰電力を使ってのグリーン水素が軌道に乗り、FCV用や産業用の高熱利用が徐々に可能となってきて、ガスからの脱却も進んでいく。その途上である2040年には、CO2排出量は70%の削減が可能となり、さらに2050年に向かってはグリーン水素による船舶や航空機などの運輸部門も脱炭素化が可能となってきて、2050年ゼロを達成する ■グリーン水素は脱炭素社会の切り札に ・脱炭素社会を進めるには、電力よりも脱炭素化が難しい燃料用途と産業用の高熱用途の化石燃料需要を、可能な限り電力に置き換えていくことが有効である。そのためには電気自動車の普及や鉄鋼の電炉化推進などが必要である ・その上で現状化石燃料を利用している運輸部門や産業用の高熱用途を、水素で代替していく。その水素を化石燃料から作るのでなく、自然エネ由来の電力を使っての水分解によるグリーン水素が化石燃料脱却への道筋となる ・太陽光と風力発電など変動電源による発電量と電力需要を合わせるために、電力需要を超える発電が必要となる。したがって余剰電力の発生は必然となる。本シナリオでは、2030年段階で余剰電力が電力需要の約1割、2050年に向けては2倍近く発生する。その余剰電力でグリーン水素を作り、脱炭素化が難しい燃料と熱需要に使うことで、エネルギー全体を脱炭素化していくことが可能となる ・グリーン水素は現状すでに普及段階にある技術であり、電力料金さえ低くなれば採算性が合う。すなわち余剰電力を使って作るグリーン水素は理に適うエネルギーで、脱炭素社会の切り札となる