青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
今シーズン限りの現役引退を発表している青山敏弘が、12月1日の北海道コンサドーレ札幌戦で今シーズン5度目のベンチ入りを果たし、チームとともに最終節での逆転優勝に望みをつないだ。21年間、サンフレッチェ広島ひと筋でプロのキャリアを歩んできたバンディエラがホーム最終戦後の引退セレモニーでチームメート・サポーターに向けて示したサプライズとともに、ラストマッチにかける思いに迫った。 (文=藤江直人、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
呪縛を解いたメッセージ「本当の敵は自分たちの中に」
いつもとまったく異なる光景だった。ホームのエディオンピースウイング広島に北海道コンサドーレ札幌を迎えた、12月1日のJ1リーグ第37節のキックオフを直前に控えたロッカールーム。円陣の中央で声を出し、チームの士気を高めたのはキャプテンのDF佐々木翔ではなかった。 特別に指名されたのは、広島ひと筋で21年間にわたって歩んできたプロのキャリアに今シーズン限りで別れを告げ、現役引退を表明している38歳のMF青山敏弘。札幌戦で今シーズン5度目のベンチ入りを果たしていたバンディエラは、短い言葉のなかに思いの丈を凝縮させた。 広島の選手たちによれば、青山は「やるよ」や「勝つよ」と、そして最後に「楽しもう」と大声で叫んだという。それで十分だった。DF荒木隼人は「みんなすごく気合いが入った」と振り返る。 前節までに今シーズン初の3連敗を喫し、その間に首位をヴィッセル神戸に奪われ、札幌に負ければ優勝の可能性が消滅する瀬戸際で、広島は前半開始8分にFW加藤陸次樹のゴールで先制。最終的には5-1で圧勝して2位をキープし、神戸との勝ち点差を1ポイントに縮めた。 敵地・埼玉スタジアムで浦和に0-3で完敗を喫した前節。ピッチには立たなかったものの、この試合でもベンチ入りしていた青山は、試合後には泰然自若とした表情で心配無用を強調した。 「この苦しさを自分たちで乗り越えなきゃいけないし、みんなが通る道だし、それを乗り越えて初めてつかめるものなので。いまはそこを試されているところだし、優勝とはそういうものでしょう。この段階で3連敗しても、まだ可能性は残っている。何ひとつあきらめる必要はないですよ」 2012、2013、2015シーズンの優勝を経験しているレジェンドは、すべてが苦しみ抜いた末につかんだものだったと強調し、本当の敵は自分たちのなかにいると試合前の円陣であらためて伝えた。呪縛から解き放たれたゴールラッシュは、さまざまなサプライズをも導いている。