大林宣彦が明かした自作への思い~「自分の映画には常に戦争が出てくる。そして必ず生者と死者が同居している」
2020年4月10日に惜しくも逝去した映画監督の大林宣彦。商業デビュー作の『HOUSE/ハウス』がいきなりヒットし日本映画界に新風を巻き込み、その後も自由な作風を崩すことなく作品を撮り続けた驚異の作家だ。そんな大林が全自作を語り尽くした書籍『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』(立東舎)が、2020年10月22日に刊行された。取材回数は20回を優に超え、総ページ数も760ページと、大林作品同様に「脳が追いつかない」書籍となった本書では、その創作の秘密があますところなく語られている。取材・編集を担当した馬飼野元宏氏に、本書の企画立ち上げから完成までの裏側を伺うことにした。
1980年代の作品と2010年代の作品は、らせん状に繋がっている印象
――そもそもどのような経緯で、本書の企画はスタートしたのでしょうか? 馬飼野 僕は長年、映画雑誌『映画秘宝』の編集部にいるのですが、その編集部があった出版社(現在は別の版元から発行)で、2015年に『完本 市川崑の映画たち』という書籍を編集したんです。これは森遊机さんが90年代に出された書籍の完全版で、森さんとも、市川監督の事務所ともお仕事でお付き合いが多かった縁で、同書を、僕含め3人がかりで編集して世に出しました。 この本はまさに一問一答形式で、市川監督の全作品について話を聞くというスタイルをとっていて、その後多くみられる映画監督のキャリア総括書の基本スタイルになった本でした。それで、「自分がこういう本を作るとしたら誰だろうな」と漫然と考えていて、大林宣彦監督しかいないだろう、と思い当たったんです。 大林監督とは『映画秘宝』で何度もインタビューさせていただいたのですが、新作の発表以外にも、雑誌やムックのいろいろな企画でご登場いただいたこともあり、また実のところ僕自身が「商業映画デビュー作からずっと作品を観てきている映画監督」というと、大林監督が最初の監督になるんです。 これまでにも大林監督が自作を振り返るスタイルの書籍は何冊が出ているのですが……というか、大林監督は出版点数がすごく多い映像作家なんです。だけど、2000年代以降の作品まで網羅されているものはなくて、最新作まで全部の作品を、今の心境で語っていただけたら面白いのではないか、と思ったんです。例えば1980年代の作品と、2010年代に作られた作品は、らせん状に繋がっている印象がありました。そのあたりのトータルな線が描けるのでは? と思い、監督にお話を持ち込んだら、大変喜んでくださって、企画がスタートしました。ちょうど2017年に『花筐/HANAGATAMI』が公開されることもあり、当初はそのタイミングで出す予定でしたが、延びに延びてしまい、そのうち版元がなくなってしまい、困惑していたのですが、立東舎さんから今回、無事発行できることとなりました。 ――大林監督への取材時期と、おおよその取材回数を教えてください。 馬飼野 取材は2017年の1月にスタートして、最後が同年の9月ごろであったかと思います。ちょうど『花筐/HANAGATAMI』の仕上げ段階の頃です。取材は僕と秋場新太郎君の2人体制で行いました。月に2回ぐらい、監督の体調を鑑みつつ、それでも1回の取材は2時間の予定でお願いしていたのですが、絶対に3時間オーバーになる。大林監督のインタビューは大体いつもそのくらいですが、3時間を超えると恭子プロデューサーがやってきて「あのー、そろそろ……」と言われてしまいます(笑)。取材回数はおそらく20回を超えていたかと。大体1回につき3~4作品を聞くよう予定しているのですが、『HOUSE/ハウス』の時はいきなりこれ1作で1回分使ってしまいました。『転校生』もこれ1作で1回分でした。 取材場所は基本、成城にある大林監督の事務所・PSCで行いましたが、時には監督のご自宅にお呼ばれして、監督の書斎でインタビューを行ったり、一度、検査入院されていた大学病院の病室にお邪魔したこともあります。思えばあれだけの巨匠を一定期間、ほぼ独占して取材してしまったので、あとから考えるととんでもないことをしたな……と思ってはおりますが。