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戦争と破壊しか知らないイラクの若者たち、アラビア語翻訳で国の復興目指す

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The Guardian

【記者:Olivia Cuthbert】  イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がイラクの都市モスルを掌握した時、危険にさらされたのは人の命だけではなかった。知識もだ。  幸運なことにアミーン・ジャリーリさんは、それを予見していた。ジャリーリさんは、ウィキペディアの膨大なファイルをオフラインで使用するため友人のWiFiを使って転送。ISが2016年7月にケーブルを切断した時には、準備万端だった。 「読むという行為は、自分がまだ人間であることを実感させてくれる。ISの支配下で暮らしていればなおさらだ。知識というのは無限だから」とジャリーリさん。「空爆のさなかでも、イヤホンをして音楽を聴きながら読書をしたものだ」と明かした。  インターネット上にはアラビア語で書かれたものが非常に少ないため、ジャリーリさんがダウンロードしたのは英語のファイルだ。モスルがISから解放された今、モスル大学の学生たちとジャリーリさんは、この不均衡の是正に取り掛かった。  ジャリーリさんと学生たちは協力して、ウィキペディアのページや学術的な記事、それに科学や文学、哲学などの重要文献をアラビア語に翻訳している。うそに論理で対抗し、プロパガンダやフェイクニュースに批判的思考で立ち向かうためだ。  アラビア語は、インターネット利用者の間で4番目に多く使われる言語であるにもかかわらず、アラビア語で書かれたコンテンツの割合は全体の0.6%にすぎない。文学や情報をアラビア語に翻訳するプロジェクト「ハウス・オブ・ウィズダム2.0」を手掛ける団体「アイデアズ・ビヨンド・ボーダーズ(IBB)」は、この隔たりを狭め、アラブ社会で、誰もが情報に自由にアクセスできるようにする計画を進めている。  IBBの創設者であるファイサル・サイード・ムタルさん(28)は、サダム・フセイン政権下で育った。「偽情報があふれていた」と話すムタルさん。イラクをはじめとするアラブ諸国の若者たちには、多様な情報を抑え込み暴力のまん延を野放しにする独裁政権や過激派組織に対抗できるすべを身に付けてほしいという。  IBBはこれまでに、女性科学者や公民権、宗教的多様性、進化、陰謀論などのページを含め、210万ワード以上をアラビア語版ウィキペディアに加えた。  反響は驚くべきほどだ。2017年のIBB創設以来、フェイスブックのフォロワー数は100万人を超え、ネット上の全コンテンツの閲覧件数は1日4万件以上に上っている。  IBBは現在、書籍の翻訳も行っている。IBBには翻訳の依頼が山のように届いており、イラク全土のさらに6大学と提携して対象言語をクルド語とペルシャ語にも広げるため、60人いた翻訳者の数を2倍に増やした。  ソーシャルメディアに毎週、さまざまな女性科学者に関する情報も投稿している。 「女性は何でもできるのだという認識をここの人たちの間で高めてもらうことが重要だ」と話すのは、シャフド・シャヒンさん(25)。シャヒンさんはISがモスルの学校や大学を閉鎖していた数年間、学業を中断していたが、最近卒業した。  IBBは翻訳した資料を、無料でダウンロードできるPDFファイルで閲覧できるようにしている。しかし、街中では読者らが独自の方法で情報を広めている。 「私たちが訳したものを非公式ながら本にしたり、検閲を避けるためテレグラムなどのアプリを通じて共有したりしている」とムタルさんは説明する。  翻訳プロジェクトとして始まったものが、若者たちの活動として急速に成長していると話すムタルさん。「絶望感を感じても無理のない人たちだ。彼らが知っているのは、戦争と破壊だけ。それでも、毎朝起きて文化や多様性についての話を翻訳している。この国をもっとよくするため、解決策の一翼を担いたいのだ」と語った。【翻訳編集】AFPBB News 「ガーディアン」とは: 1821年創刊。デーリー・テレグラフ、タイムズなどと並ぶ英国を代表する高級朝刊紙。2014年ピュリツァー賞の公益部門金賞を受賞。

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