【世界に後れを取る日本の創薬力】反ワクチン派のケネディ氏の米・厚生長官就任でも予防できる開発力と接種率で感染症に備えよ
革新的なワクチンの開発には基礎研究や大規模な臨床試験(治験)のために巨額な資金が必要だ。アメリカの場合、いち早くワクチンを開発できたのはビッグファーマと呼ばれる巨大製薬企業の資金力もあるが、国の支援による後押しも大きい。 例えばアメリカ政府は2020年5月、ワクチンや治療薬の開発・生産・流通を迅速に進めることを目的とした大規模プロジェクト「ワープ・スピード作戦(オペレーション・ワープ・スピード)」を立ち上げ、ワクチン開発企業に多額の支援を行った。米国の議会調査局が作成するCRS報告書によると、その額は150億ドル(2兆2500億円、1ドル=150円で計算)を超えている。 同作戦の遂行はトランプ政権だが、ワクチン反対を掲げるケネディ氏が厚生長官の場合どうだったのだろう。そして、次の感染症のパンデミックが起きたとき、ケネディ氏はこうしたプロジェクトに予算をつけるだろうか。 アメリカと桁は違うが、日本も新型コロナ禍でワクチン開発支援の強化を図り、3000億~4000億円規模の資金を投入したとされる。21年6月に閣議決定された「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を踏まえ、感染症有事に国策としてワクチン開発を迅速に推進させるために平時からの研究開発を主導する体制として、22年3月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)内に「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」を設置している。もちろんすぐに成果を実感する段階にはいたっていないが、国内のワクチン研究・製造基盤の強化に大きく寄与することは間違いないだろう。
失われる「集団免疫」
ケネディ氏は厚生長官への就任発表を受け、「ワクチンを禁止するつもりはない。ワクチンの安全性についてのデータを公表し、国民が十分な情報を得たうえで接種するか否かを選択できるようにする」との主旨の発言をしている。ワクチン接種を個人の選択に任せるというのは、日本の予防接種制度も同じだ。 日本の場合、それでも子供に対する定期接種の接種率はおおむね95%を保っているが、個人主義の強いアメリカではどうだろうか。ワクチンはグローバルな公共財であり、多くの人が接種することで「集団免疫」となり、感染症の拡大を防いでいる面がある。接種率が下がれば集団免疫が失われ、感染者が増え、免疫不全などでワクチンを接種できない子供たちを感染の危険にさらすことになる。 実はすでにアメリカのワクチン接種率の低下は新型コロナパンデミックを機に始まっており、ワクチンで予防可能なはしか(麻疹)や百日咳などが再び発生することが危惧されている。これらの影響が日本に及んではいけない。