教員給与を巡る省庁間の対立 犬猿の仲の「文部科学省VS.財務省」両者の主張にすっぽりと抜け落ちている視点とは?
校長として働き方改革ができなかった理由
18年に働き方改革関連の法改正などを背景に、ようやく運動部活動ガイドラインが制定され、そこには「学校と地域が協働・融合した形での地域のスポーツ環境の充実を推進する」という文言が刻まれていた。新任校長として部活動改革を決意した筆者は、このガイドラインを片手に部活動をアウトソーシングすべく行政に働きかけてみたが、どこの部署に行っても相手にされなかった。 ある会議では部活動改革に関する資料の配付さえ拒まれた。行政は部活動を何とかしようなどと考えていないことを痛感した。 学校はどうだろう。行政から「在校時間を減らせ」と言われ、まず学校が始めたのは「定時退勤日」だった。 なにせそれまで筆者の住む地域ではいつまでも電気のついている「提灯学校」という、夜遅くまで仕事していることを示す褒め言葉であった。一部の教員などは「あそこは中心校だから提灯学校なんだよ」などと言ったりして、そうした学校に赴任することは一つのステイタスになったりもした。 そこで校長会研修会でも「定時退勤日を設けることで早く帰る意識を高める」「まず管理職が定時に早く帰ることで早く帰って良いという雰囲気を作れ」などと言われたものだ。 当時、新米校長だった筆者も一応自校で設定してみた。すると、しばらくして教頭先生が報告してきた。「〇〇先生は24時間営業のレストランで仕事しているようです」「〇〇先生は一旦帰って皆がいなくなってから学校に来ています」。 部活顧問は部活動が終わらなければ会議も自分の仕事もできない。夏場の部活動の終了時間は退勤時間の2時間後になる。つまり、部活動改革など抜本的な改革なしに定時退勤日など設けても無意味なのだ。 筆者はこうした現実の中でも実践事実の積み上げで改革を実現することを選んだ。その取組はスポーツ庁Web広報マガジン「デポルターレ」掲載の「学校主導の部活動改革」に詳しい。この取組の中で様々な成果をデータで積み上げることで、部活動改革が可能であることを示したつもりである。
批判を受けてでも「改革」を
そこから数年が経ち、紆余曲折のすえ部活動改革が全国に広がっているのはご承知の通りだ。しかし、この体験から筆者は行政がいかに改革に消極的かを思い知った。 部活動改革のようにともすると多くの国民から批判を受けるようなことには行政はなかなか本気になろうとはしない。反面ICT教育とか〇〇教育とか批判を受けない事には積極的で、それは雪だるま式に教員の負担を増やしてきたのだ。 財務省の案は現場を知らぬ人が作った非現実的なプランだと筆者も思う。しかし、それを真っ向から言うためには、まず文部科学省が自ら身を切る改革を先頭切って進め、その事実をもって財務省に訴えるべきだろう。
八重樫通