教員給与を巡る省庁間の対立 犬猿の仲の「文部科学省VS.財務省」両者の主張にすっぽりと抜け落ちている視点とは?
公立学校教員の給料の在り方をめぐる2025年度予算編成において、文部科学省と財務省の対立が大きな話題になっている。 文科省は残業代の代わりに一律支給される「教職調整額」の大幅増を要求した。一方、財務省は働き方改革の成果を上げることが先決だとして、残業を20時間以内にすることを条件にいわゆる残業手当支給に初めて言及したのだ。 そもそも文部科学省と財務省はずっと犬猿の仲であり、対立は今に始まったことではない。それがここまで話題になっているのは、「今までになく強硬な文部科学省」VS.「奇想天外な提案をしてきた財務省」という新しい構図がニュースバリューになったのだろう。 調整額は教員給与特別措置法(給特法)により、1996年度の平均残業時間の月8時間を算出根拠として現在基本給の4%が支給されている。しかし、50年以上経った22年度の文科省勤務実態調査(速報値)をもとに算出すると、例えば中学校教諭の残業時間は約60時間であり、残業代が8時間分では実態に全くそぐわない。こうした現状とかけ離れた実態から、文科省は大胆に13%まで調整額の増額を求めたのである。 そこへこれまでこの問題をことごとく無視してきた財務省が、働き方改革で成果を上げることを条件に、自ら残業手当の支給を示唆したのである。阿部俊子文科相は定数改善も行わずに働き方改革の成果だけを求める財務省に怒りを示した。さらに全日本中学校長会など教育関係23団体が財務省案に「非現実的だ」と緊急声明を出す展開になった。 しかし、と筆者は思う。彼らは財務省を糾弾する資格があるのだろうか。
働き方改革なくして待遇改善はない
野川孝三氏(日本教育事務学会理事)によれば、13%は26時間分の超勤相当になるそうである。ならば、文科省は少なくとも教員の時間外在校時間を26時間に減らすことを大前提にしなければならないはずだ(「4%→13%に引き上げ?残業減が条件? 教員の処遇改善は難航必至」寺子屋朝日)。 しかし、財政制度分科会資料によれば、22年度教員勤務実態調査における時間外在校等時間はそれぞれ18年度の調査よりも小学校で8時間、中学校で3時間増加しているのだ。これでは文科省が言っていることには全く説得力が無い。 また、財務省資料にあるように現在教員が給料に大きな不満度があるわけではない。逆に言えばいくらお金をもらってもできない仕事を請け負わされていることが問題なのだ。 はたして文科省をはじめ自治体、そして学校管理職は働き方改革に十分に取り組んできたと本当に言えるのだろうか。 中学校の働き方改革の本丸は部活動改革である。先の文科省勤務実態調査で在校等時間の内訳を見ると、中学校教諭では「授業準備」が1時間15分なのに対して「部活動」が2時間6分である。 授業は教員の本務であるが、少なくとも部活動は教育課程上の活動ではなく法令上の義務はない。文科省の分類でも「必ずしも教師が担う必要のない業務」とされている。 それが本末転倒状態になっているのだ。このことにメスを入れないで働き方改革などできるはずがない。 しかし、文科省も各自治体もこの問題を避けてきた。いや、それどころか98年の学習指導要領の改訂により、クラブ活動を部活動で代替えできるようにしてからは教育課定上の位置づけが曖昧なまま、部活動の全員加入制が推奨されることになった(文教科学委員会調査室~問われている部活動の在り方~関 喜比古)。結果として顧問教員の負担は大きくなり学校の疲弊は広がるばかりとなった。