災害時&過疎地の新ヒーロー? 「移動ATM車」をご存じか
移動ATM車の運営上の課題
移動ATM車の運営にはいくつかの課題もある。まず、通信手段の確保が難しい点が挙げられる。特に山間部や離島など、通信環境が整っていない地域では、安定した通信を確保するのが困難だ。衛星通信を利用する場合、高額な通信コストが発生し、運営費用が増加する。 また、現金を扱うため、盗難や強盗のリスクが高く、厳重なセキュリティー対策が必要だ。警備会社と連携し、運行中や停車中の安全を確保する必要があるが、これも運営コストを押し上げる要因となる。 さらに、運営には人員の確保も重要だ。運転手や現金管理担当者など、専門的な知識と技能を持つ人材が必要で、これにともなう人件費も無視できない。また、運行スケジュールやルート管理も複雑で、効率的な運営が求められる。運行管理システムやリアルタイムでのデータ分析が必要となり、これもコスト増加の原因となる。 加えて、利用者数が限られる場合、運営の採算が取れない可能性がある。ATMが少ない地方では需要が見込まれるが、固定店舗のATMが多く存在する都市部では、移動ATM車の需要が低くなることが考えられる。そのため、移動ATM車の運営は特定の条件に依存することが多い。
移動ATM車の今後の展望と技術の進化
移動ATM車には課題もあるが、技術は進化し続けており、今後さらに多機能化が進むと期待されている。 そのなかでも、自動運転技術の導入が大きな転換点となる可能性がある。沖電気工業(OKI)が開発した小型ATMは、一般車両に搭載できる設計になっており、将来的には自動運転車両との統合が期待されている。自動運転技術を活用すれば、人手不足の解消や24時間稼働が可能になり、サービスの拡大にもつながるかもしれない。 ATMを搭載した車両のセキュリティー確保も重要な課題だが、最近ではAmazon GOのような無人店舗で使われるセンサー技術が応用され、不審者の検知や防犯システムの強化が進んでいる。また、セブン銀行では、東京と大阪の2拠点で勘定系システムを運用し、BCP(事業継続計画)の高度化と24時間365日の無停止運転の実現を目指している。 さらに、移動ATM車は単なる現金の入出金にとどまらず、さまざまなサービスを提供する方向に進化している。例えば、AIG損害保険は、セブン銀行のATMで個人火災保険の一部保険金を受け取るサービスを始めた。今後は、各種行政サービスや身分証明書の発行など、さらに多様な機能を搭載することで利便性の向上が期待されている。 東日本大震災の経験を踏まえ、衛星通信技術やバッテリー技術の進化により、今後はより長時間の稼働や通信障害に強い設計が実現されると予想される。 また、移動ATM車の市場規模は今後拡大する見込みだ。JA農中総研によると、数年内に全国の金融機関の店舗数が約1000店舗減少すると予想されている。この背景には、人口減少やスマートフォンなどによるネット決済の普及、長期にわたる低金利による収益悪化があり、店舗の統廃合が進むためだ。 移動ATM車の普及には、運用コストの削減や現金輸送時のセキュリティー確保、さらには将来的なキャッシュレス社会への対応といった課題がある。しかし、災害時や特殊なイベント時には現金需要が依然として高く、移動ATM車の役割は今後ますます重要になっていくだろう。 今後は、自動運転技術やIoTを活用した次世代の移動ATM車が、必要な場所に迅速に移動し、多様なサービスを提供する形で実現するのではないかと期待される。
木村義孝(フリーライター)