キアヌ・リーブスが「ビルとテッド」シリーズで築いた、30年来のゴキゲンな友情「互いにエクセレントであれ」
これまで数々の映画で描かれてきた名バディ。ジャッキー・チェンとクリス・タッカーによる「ラッシュアワー」シリーズ、『デンジャラス・バディ』(13)ではまじめな嫌われ者FBI捜査官と荒くれ者の女性刑事が、『最強のふたり』(11)では障がいを抱えてしまった富豪と、刑務所を出たばかりの移民の黒人青年。性格や出自など異なる者同士が、反目し合いながらも困難を乗り越えていくというのが鉄板パターンだろう。 そんなお約束を破り、気のいいおバカ高校生×気のいいおバカな高校生という似た者同士の大親友2人が超ご機嫌な冒険に出る、最高の名バディムービー「ビルとテッド」シリーズをご存知だろうか? 【写真を見る】1989年のキアヌ・リーブス、フワフワヘアにバカっぽさ全開のルックスがかわいらしい!(『ビルとテッドの大冒険』) ■高校生がひたすらバカをやる?カルト的人気を誇る「ビルとテッド」とは 「ビルとテッド」シリーズは、アレックス・ウィンターとキアヌ・リーブス演じるおバカなティーン二人組が主人公。実は彼らは未来の存続に関わる超重要人物であり、時代や生死を超えたハチャメチャな体験をするというぶっ飛んだコメディ。その記念すべき1作目が、1989年の『ビルとテッドの大冒険』だ。 ろくに楽器も弾けないのに、ロックスターを夢見る調子のいい高校生のビル(アレックス)とテッド(キアヌ)。世に出たロックバンドには精通しているが、歴史の知識はさっぱりの彼らは、翌日に迫った研究発表の成績しだいでは落第という窮地に陥ってしまう。どうしようかと悩んでいた2人は、突如現れたルーファスと名乗る謎の男によって電話ボックス型タイムマシンで過去へと送り出され、ナポレオンに古代ギリシアの哲学者ソクラテス、リンカーン大統領など歴史上の人物を巡る旅に出ることになる。 続く1991年の『ビルとテッドの地獄旅行』では、そのハチャメチャぶりはよりパワーアップ!未来の悪党に、ロックスターとして世界を平和に導く運命にあるという理由から命をねらわれたビルとテッドは、自分たちそっくりのサイボーグにまんまとだまされ、殺されてしまう。地獄に落ちた2人は、そこで出会った死神と天才的頭脳を持つ宇宙人を味方につけ、なんとか現世に戻ろうと奮闘していく。 行き当たりばったりな行動の連発によるトリッキーな展開、頭を空っぽにして楽しめるバカバカしいギャグに加え、「互いにエクセレントであれ」という他者への思いやりの大切さを謳ったメッセージも込められている本作。さらに、仲睦まじい主人公2人を体現したアレックスとキアヌの2人の演技も最高にチャーミング。いまなおカルト的な人気を集めるのも納得な、愛すべき要素が詰まっているのだ。 ■プライベートでも名バディな2人の歩み 劇中で抜群の相性の良さを見せつけている2人は、インタビューで「言い合いをしたことがない」と語るなど実際に仲が良く、意見が通じ合うのだそう。そんな関係を表しているのが『ミュータント・フリークス』(93)だ。『~地獄旅行』の2年後に作られた本作は、アレックスが共同監督と主演を務めたブラックコメディ。見世物にされているミュータントたちが、実はマッド・サイエンティストによって創り上げられたもので…という過激すぎる内容から、日本では昨年まで長らくソフト化されておらず、“発禁”の噂も立っていた作品だ。 キアヌはそんないわくつきとも言える作品に、特殊メイクで誰が演じているのかわからないような役どころ&ノンクレジットで、嬉々として出演しているのだ(リハーサル映像がとにかく楽しそう)。ちなみに『~地獄旅行』で死神を演じているウィリアム・サドラーも出演しているので、ファンはチェックしてみてほしい。 その後、キアヌは『スピード』(94)、「マトリックス」シリーズなど、アクションスターとして大ブレイク。一時期は公園で寂しそうにサンドイッチを食べる姿が“サッドキアヌ”としても話題になったが、「ジョン・ウィック」シリーズで大復活を果たし、役者として充実の時間を過ごしてきた。 一方、アレックスは監督として映画やテレビシリーズ、アーティストのMVを手掛けるようになり、役者をやりながら映像制作者としての道を歩むことに。そして2010年代からはドキュメンタリー作家として社会の闇に切り込んでいき、数々の賞を受賞するなど成功を収めてきた。 異なる道を歩んでいったものの、関係は切れなかった2人。史上最大の闇ドラッグサイトであるSilk Roadなど、インターネットの暗部に迫ったアレックス監督のドキュメンタリー『Deep Web』(15)ではキアヌがナレーションを務め、またその翌年の短編テレビ映画『Quantum Is Calling』(16)でも監督と演者としてタッグを組むなど、旧交を温めてていたのだ。 ■まさかの続編が公開!中年になってもビルとテッドは相変わらず!? そしてこのたび、そんな2人が前作から30年近くの年月を経て再共演するまさかのシリーズ第3作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』が公開中だ。キアヌはメディアでたびたび続編の夢を語っていたが、ついにその念願が叶ったのだ。 世界を一つにする名曲を作ると予言されながらも、いまだその曲を作れず30年…。人気も落ち込み、応援してくれるのは家族だけとなっていたビルとテッドの前に未来からの使者が訪れ、「あと77分で曲を作らないと時空の歪みで世界が消滅してしまう」と告げる。窮地に追い込まれた2人が運命の曲を手に入れようと奮闘するなか、ピンチを知った娘たちもジミ・ヘンドリックスら歴史的な音楽家たちをスカウトすべく時空を超える旅に出る。 30年近く経っても、ガレージでギターを奏でている純粋さや、未来の自分を訪ねて曲をパクってしまおうとする軽率さなど、相変わらずな2人の活躍が楽しい本作。だが、これまでとは違い、ビルとテッドが全世界を救うという大義のために行動したり、娘や妻たちとの関係も描かれたり、昔の過ちを認めたりと、中年になったからこその人生に関するメッセージが盛り込まれている。おバカさ加減は変わらずも、これまで以上に真摯な姿勢が貫かれた、とにかくエモーショナルな仕上がりに。 あらゆる事柄が二極化してしまっている現代。いまこそ本作を観て心の底から笑いながら、2人の熱い友情に、手に手を取ることの大切さを感じ取ってほしい。 文/サンクレイオ翼