伝説のラーメン店「福寿」が閉店 「半沢直樹」「時効警察」ロケ地にも “最後の一杯”を逃した記者は…
一歩店に入れば“昭和”へタイムスリップ
東京・笹塚駅前の商店街。平成生まれだから知らないけれど、きっと「昭和」とはこういう佇まいだったんだろうと教えてくれる店がある。1951年創業のラーメン店「福寿」だ。 透き通った醤油スープとちぢれ麺は、口にするたびにほっと温まる優しい味がする。どこにでもありそうだけど、どこにも同じものはないラーメンだ。 【動画】コロナ禍で営業を続けていた「福寿」の映像はこちら ほとんどの客がスープを飲みほし、最後まで味わう。毎日のように通う地元客もいる。 二代目店主・小林克也さん(80)は、45年前に父から店を受け継ぎ、その味を守り続けてきた。いつも、傾いたカウンターの向こう側に立つ。大きな鉄鍋にぐつぐつと煮立つお湯に、ひと玉ずつ麺をくぐらせ、湯切りをしながら、客と軽快に言葉を交わしていた。 そんな名店が、4月24日にひっそりと店を閉じていた。 閉店を伝える張り紙もない。時折、常連客らしき人が店の前で立ち止まるが、普段から営業時間が変わることが多かったので、「きょうはもう閉まっているのか」と言いながら去っていく。
「間に合わなかった・・・」
おととしの暮れ、記者は「コロナ禍の中なのに、今にも潰れそうな古いラーメン店がなぜ生き残っているのか」というちょっと失礼なテーマで、店を取材し、放送した。その後も、ラーメンと小林さんの軽口が恋しくなり、たびたび店にお邪魔していた。だが3月末、いつも通りラーメンを頂いたあとに突然「妃奈子さん、口が堅いから言うけど、ここ閉めることにしたんだよ」と聞かされた。衝撃を受けた。マンション建設のための立ち退きだという。 小林さんは「あなたが潰れそうなんて放送したでしょ?本当に潰れちゃったんだよ」と笑っていた。とはいえ、閉店予定は6月だというので、まだ時間があると思っていた。 ところが、5月に入ってから突然、小林さんからLINEのメッセージが届いた。「お店は4月24日で終わったんですよ」と書いてある。3月末に閉店の予定を聞いたときに、「最終日は取材させてくださいよ」とお願いしたら、「絶対に嫌だ。猫みたいにいなくなりたいと思ってるんだよ」と頑なに拒否されたので、「やられた…」と思ったのは事実。そんなことよりも、閉店直前に「これが最後」という覚悟で、あのラーメンを食べたかった。ただ無念だった。死を悟るといつの間にかいなくなるといわれる猫のように、小林さんは本当に店を閉じてしまったのだ。 毎日のように通っていたごく一部の常連客だけが最後のラーメンにありつくことが出来たらしい。ホームページも、SNSもない店なので、「もう二度と食べられないのか・・・」、「間に合わなかった!」と無念を感じている人も多いのではないだろうか。