アメリカは本当に「反グローバル化」に向かうか
内外で議論の最先端となっている文献を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の気鋭の論客4名が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズ。 今回は、トランプ政権の外交基盤となり、アメリカ保守主義再編や欧州ポピュリズムにも大きな影響を与えたといわれるヨラム・ハゾニー氏の新刊『ナショナリズムの美徳』を中心に、国民国家、ナショナリズム、リベラリズムについて徹底討議する。 この記事の写真を見る
■新しい保守主義の潮流 中野:バイデン政権にはオバマ政権の外交スタッフたちがそのまま入っているので、アメリカは再びトランプ前に戻ると見られていましたが、現在のところ必ずしもそうはなっていません。 むしろバイデン政権は意外なほどトランプ政権と連続しています。アメリカの民主党は、どこかの国の政党と違って、下野している間によほど反省したんだなという感じがします。トランプがあれほど支持されたことで、民主党系のエリートたちは思いきり横っ面を張られた形になり、どこまで本気かはともかく反省せざるをえなくなったのでしょう。
これは共和党にも言えることです。ネオリベラリズムに魂を売った共和党からすれば、ネオリベラリズムを批判するトランプがあれほど多くの支持を集めたことは大変ショッキングな出来事でした。あれぐらいのショックセラピーでなければ、民主党も共和党も正気に戻ることはなかったと思います。 施:そうですね。その点について考えるうえで参考になるのが、ヨラム・ハゾニーの『ナショナリズムの美徳』です。私は中野さんとともにこの本の解説を書きましたが、ハゾニーについて簡単に紹介すると、彼はイスラエルの政治哲学者、聖書研究家です。1964年にイスラエルに生まれ、アメリカで育ち、プリンストン大学を卒業したのちにラトガーズ大学で政治哲学の博士号を得ています。