製薬企業リストラ相次ぎ、次の焦点に…小野薬品「オプジーボ」特許切れで生じる衝撃波(重道武司)
【経済ニュースの核心】 新薬創出型の製薬企業にとってリストラはもろ刃の剣──だ。「カネ食い虫」(業界準大手首脳)とされる多額の研究開発費が減ってコスト構造の改善が見込める半面、頭脳流出で「明日のメシのタネ」(事情通)まで失うリスクをはらむ。 相次ぐ治験失敗…大塚ホールディングス「特許の壁」克服戦略の前途多難 SNSや口コミを通じてリストラの苛烈な実相が外部に拡散すれば、研究開発要員の再補充など将来の人材確保に支障を来す恐れも否めない。 「成長機会を自ら摘み取るようなもの」(業界筋)だ。それでも「背に腹は代えられない」といったところか。製薬企業のリストラ劇が相次いでいる。 7月末に三菱ケミカルグループ傘下の田辺三菱製薬が連結従業員数の4割に当たる約2200人を対象とした人員削減策を発表したのに続いて、住友ファーマが国内で過去最大となる約700人の早期退職の実施を公表。8月初旬には最大手の武田薬品工業も国内で希望退職を募ると表明した。 田辺三菱は「募集枠」を定めず、武田は今後、労組との協議を経て対象部門や人数、時期などを決める。同社は米国でも1000人規模の人員カットを含む構造改革に乗り出しており、これを国内にも広げる。 背景にあるのは、いずれも主力薬の特許切れに伴う収益悪化や新薬開発の頓挫だ。武田は柱のひとつの注意欠陥多動性障害(ADHD)治療薬「ビバンセ」の米国での特許が昨年8月に失効。田辺三菱は今年6月、パーキンソン病治療薬の同国での承認申請に対し、米食品医薬品局(FDA)が「見送り」の判定を下した。 そんななか「製薬リストラの今後の最大の焦点になる」(市場関係者)と取り沙汰されているのが小野薬品工業だ。屋台骨であるがん免疫治療薬「オプジーボ」が2028年以降、順次、特許切れを迎えるためだ。31年までには日米欧の全てで独占販売権が消滅する。 オプジーボが小野薬品の売上高(24年3月期で5026億円)に占める比率は約6割。これがはがれ落ちることで生じる衝撃波はそれこそ「甚大なものになる」(同)に違いない。 無論、手は打ちつつある。6月には抗がん剤に強みを持つナスダック上場の米バイオ企業を24億ドルで買収。オプジーボの投与対象がん種の適応拡大などの開発も進める。刻々と切迫する時間との闘いでもある。 (重道武司/経済ジャーナリスト)