フリーダ・カーロに魅せられて ドイツのとある美術館ができるまで【世界から】
「フリーダ、私の秘密」で展示されるのは全てレプリカ。フリーダの死後に著作権所有者の許諾を得た上で忠実に複製したものだ。ちなみに、フリーダ作品の著作権は全てメキシコ政府に帰属し、管理は「ディエゴ・リベラ&フリーダ・カーロ・ミュージアム・トラスト」という組織が行っている。フリーダ・カーロ美術館を運営しているのもこの組織だ。 展示は、フリーダ作品の半分以上に当たる123点に上る。ところが、公開後まもなく新型コロナウイルス禍が欧州を襲った。ロックダウン(都市封鎖)が実施される度に、美術館は閉館を強いられている。ドイツは現在、2度目のロックダウンの最中であり、展覧会再開の見通しは立っていない。 ▽好きが高じて… ゲアケ・レムンド美術館は世界で唯一、フリーダが描いた全作品のレプリカの制作と展示が公式に認められた美術館だという。同美術館の創設者であるハンス=ユルゲン・ゲアケさんとマリエラ・レムンドさんは、ともにフリーダに魅了され、1980年代から本職のかたわら、フリーダ作品のリサーチを行ってきた。ゲアケさんは米国系IT企業のドイツ子会社で社長を務める。レムンドさんは中国を始めとする世界各地のポリテクニック(高等職業教育機関)や工科大学の講師だ。
レプリカ制作の許諾を得た2人は所蔵美術館や所蔵者に掛け合って、オリジナル作品を細部に至るまで写真撮影した。それと平行して、作画技術を克明に記録し、レプリカ制作になくてはならない資料を作成した。さらに実際に描いてくれる画家を探し始めた。 北京を拠点の一つとするレムンドさんは、現地の画家たちと交流があり、彼らの中から複数の画家がレプリカ制作を引き受けたいと申し出てくれた。フリーダのレプリカは単なる模写ではなく、「画家の魂」を持つプロによって描かれるべきだと考えていた2人にとって、それは願ってもない出会いだった。 最終的に4人の中国人の画家たちがレプリカを制作することになった。2人は製作中の画家たちの元を何度も訪れ、綿密な打ち合わせを行いながら仕事を進めたという。写真などの資料が十分にない作品は、制作そのものを断念した。 ゲアケ・レムンド美術館の開館は2008年。米・サンディエゴなどで巡回展を行っていた時期もあったが、17年以降は全コレクションがドイツに戻っている。同美術館のキューレーターも兼務しているレムンドさんは定期的に企画展を行い、さまざまな視点からフリーダの魅力にアプローチしている。「フリーダ、私の秘密」は8回目にあたる企画展で、フリーダの美意識やエレガンス、ファッションへのこだわりにフォーカスを当てている。