Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

ALS嘱託殺人で医師2人逮捕、「安楽死」の議論や法整備はなぜ進まないのか

配信

ダイヤモンド・オンライン

 年配の読者なら、故・手塚治虫氏の代表的作品「ブラック・ジャック」に登場するドクター・キリコを思い浮かべた方も多いのではないだろうか。京都府警捜査1課は23日、難病に指定されている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に薬物を投与して死亡させたとして、医師2人を嘱託殺人の疑いで逮捕した。この事件は、医師が依頼されて報酬を受け取り、苦痛を伴わずに患者を死に至らしめる「安楽死」だったとされる。過去にも終末期医療などを巡る同様の事件が明るみになり、そのたびに「治療か尊厳死か」が取り沙汰されるが、ほとんど議論されることはなく、法整備も進まないのが現状だ。(事件ジャーナリスト 戸田一法) ● 安楽死の報酬は130万円  逮捕・送検されたのは、ともに医師でクリニックを経営する仙台市泉区の大久保愉一容疑者(42)と、東京都港区の山本直樹容疑者(43)。  逮捕容疑は共謀して昨年11月30日午後5時半ごろ、ALS患者の林優里さん(当時51)に依頼され、京都市中京区にある林さんの自宅マンションで致死量の薬物を投与して殺害した疑い。  全国紙社会部デスクによると、林さんは2011年、ALSを発症。18年4月にツイッターアカウントを開設し、同年12月ごろに大久保容疑者とやりとりが始まった。

 19年1月に安楽死を希望する林さんのツイートに、大久保容疑者が「訴追されないならお手伝いしたい」と返信していた。  同年11月30日、両容疑者が別々の新幹線で京都市に到着し、市内のホテルで合流。午後5時20分ごろ、林さんのマンションを訪れてヘルパーと対面し、知人を名乗って訪問記録に偽名を記載したという。  両容疑者がマンションに滞在したのは約10分。別室にいたヘルパーが部屋に戻ると林さんは意識不明の状態で、午後8時19分、搬送先の病院で死亡が宣告された。  林さんの遺体からは司法解剖の結果、鎮静作用がある「バルビツール酸系」の薬物が検出された。この薬物は脳の興奮を抑える作用があり、睡眠薬や抗てんかん薬、麻酔薬などに使用される。  即効性が高く、大量に投与すれば呼吸を抑制し死に至る。欧米では合法的な安楽死や死刑執行に使われている。  林さんはチューブを通して胃に直接栄養を送る「胃ろう」で生命を維持。遺体に注射痕などはなかったことから、胃ろうから致死量の薬物を投与されたとみられる。  両容疑者は当日、そのまま京都市を離れた。安楽死の報酬は130万円。林さんから山本容疑者の口座に振り込まれていた。 ● 被害者と容疑者の接点  ALSは全身の筋肉が萎縮し徐々に衰える神経変性疾患の難病で、有効な治療法は確立されていない。日本では1974年に特定疾患に認定された。  れいわ新選組の舩後靖彦参院議員、元衆院議員で医療法人徳洲会を設立した徳田虎雄氏もALSで、国内の患者数は約1万人といわれる。  林さんは東京で建築関係の仕事をしていた11年にALSと告知され、京都市の実家に戻った。その後、マンションを借りて一人で暮らしていたが、発声できなくなり、食事も困難に。  障害福祉サービスの「重度訪問介護」を利用し、京都市から派遣されるヘルパーが24時間態勢で胃ろうでの栄養摂取や排せつなどのケアをしてきた。  一方で、事件当時も瞳の動きで操作できるパソコンでSNSに投稿するなど、コミュニケーションは可能だった。

【関連記事】