ニュースでよく見る「ぶら下がり取材」とは?
報道に携わる記者やレポーターが首相や議員を取材する場合、記者会見に出席するというやり方が一般的です。記者会見の多くは、官公庁などに設けられた記者クラブやホテルなどの場所を借りきった会場で行われます。 記者会見は、取材される側が公式に会見の場所を設定するのに対し、「ぶら下がり取材」というのは、公式な記者会見の場ではなく、なかばゲリラ的に取材することを指していました。たとえば、国会議事堂の廊下を歩く首相や議員、公用車に乗り込もうとしている大臣にマイクやボイスレコーダーを突きつけながらコメントを求める風景も「ぶら下がり取材」です。「ぶら下がり取材」というのは、本来、たくさんの記者やレポーターが移動する取材対象にぶら下がるようにして取材することから生まれた言葉なのです。 ジャーナリストの牧野洋さんは、「ぶら下がり取材」について「独自ネタになりにくい。最初は1人しかぶら下がらなくても、『ひょっとしたら重大なコメントが出てくるかもしれない。万が一に備えてぶら下がっておかないと、特オチになってしまう』との不安から、ほかの記者も一斉にぶら下がりの輪に加わるからだ」(現代ビジネス、2010年07月29日)と指摘し、「ぶら下がり取材」の功罪と記者の心理をこう解説しています。 そうした不安を拭い去るためか、「ぶら下がり取材」は“突撃取材”とは違って、「予定された形式張らない取材の機会」として慣例化した会見が行われるようになりました。2002年、当時の小泉純一郎首相が、「ぶら下がり会見」として一日に二回、首相官邸で取材に応じるという形を記者団に提示、実施するようになったことが報じられたことをご記憶の方も多いでしょう。 このように、公式に設定された記者会見ではないけれども、登退庁時など予定された時間やタイミングに立ち止まって取材に応じることを「ぶらさがり取材に応じる」と表現しますし、これに応じないことを「ぶらさがり取材を拒否する」と言うようになっています。 時間と場所を選ばない本来の「ぶら下がり取材」の形と言葉の使い方が時代とともに変化しているのです。いまでは、単に記者やレポーターが取材対象を囲い込んで取材する光景として、「囲み取材」「囲い込み取材」という言葉も使われるようになっています。