中村哲医師の精神伝えたいと、アフガン男性が開設したスポーツジムが存続危機…殺害から5年
【カブール=吉形祐司】アフガニスタンで人道支援に取り組んだ中村哲(てつ)医師(当時73歳)が殺害されてから12月4日で5年となるのを前に、首都カブールで27日、地元有志が追悼式を開いた。昨年会場だったスポーツ施設は土地所有権問題に巻き込まれ解体された。今年間借りした会場も退去を迫られる見通しだが、主催者は「来年も追悼式を開きたい」と願っている。
「3日後に出ていってくれ」。式を主催したサミウラ・マラングアジジさん(43)は10月上旬、地権者から突然告げられ、耳を疑った。中村さんの名を冠して昨年開設した「ナカムラ・スポーツ施設」が入る建物の地権者が、これまで信じていた人物とは別人だと判明し、退去を求められた。
アフガンでは政権交代のたびに土地を巡るいざこざが起きるという。今回の発端は、2021年に実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンの統治下で行われた土地の所有権調査だった。調査の結果、退去を迫った人物が地権者だと権利書などで確認された。
地権者は施設をレストランに改装したいと主張したため、サミウラさんは出ていくしかなかった。改装工事がすぐに始まり、ボクシングのリングがあった施設は跡形もなくなっている。
人道支援に生涯をささげた中村さんの理念に心を打たれたサミウラさんは、中村さんの殺害2日後に生まれた三男(4)を「ナカムラ」と名付けた。「教育やスポーツを通じて中村さんの精神を若い世代に伝えたい」と昨年、「ナカムラ・スポーツ施設」を開いた。会員はボクシングやムエタイなど格闘技を中心に6種目で技を磨いていた。
現在は週3日の利用を条件に友人が経営するジムに間借りしている。ジム経営者のアブドゥルカリム・ハジザダさん(38)は「尊敬する中村さんの名前がついた施設の会員だから受け入れた」と話す。しかし、広さは元の施設の4分の3程度で、種目もレスリングだけとなり、約300人いた会員は50~60人に減った。