中国産スズメバチが九州に侵入 在来種、環境を守りながら繰り広げる攻防戦
ツマアカスズメバチは2000年代に入ってから、ヨーロッパと韓国に侵入し、急速に分布域を広げています。侵入経路は、おそらく中国から輸出された植木鉢などに越冬女王が紛れ込んでいたのものが、新天地で営巣を始め、定着したのではないかと考えられています。 ツマアカスズメバチはほかのスズメバチ同様、主に昆虫類を捕食して餌資源としますが、特にミツバチが好物で、侵入先では養蜂業に対するダメージが大きなリスクとされます。また彼らは、比較的人工的なエリアでも営巣が可能で、森林部だけでなく、住宅街のアパートやマンションの壁など人工物にも営巣するケースが韓国では多数報告されています。スズメバチですので、人に対する刺傷被害も発生しています。
ついに日本にも上陸
そんな厄介な侵入害虫が、2013年に長崎県対馬で定着していることが確認されました。島の北部から発生が始まり、その後急速に分布を拡大して、現在、島の大部分で本種の営巣が確認されるまでになっています。 対馬はニホンミツバチという在来ミツバチの養蜂・採蜜が盛んなところで、ニホンミツバチが色々な草花から集める「百花蜜」は、巣ごと、年ごとに味も香りも異なる独特のハチミツとして、貴重な島の自然産物であり観光資源として重宝されています。 そこへミツバチの天敵でもあるツマアカスズメバチが侵入したということで、現地でも大きな危機感が走りました。対馬にはもともとオオスズメバチという在来の天敵が生息していますが、ニホンミツバチはオオスズメバチとともに進化してきたので、オオスズメバチの襲撃に対して対抗手段を備えています。 それが「蜂球(ほうきゅう)」という方法で、オオスズメバチがニホンミツバチの巣穴に近づいてきたら、大量のニホンミツバチの働き蜂が一斉に飛びかかって、オオスズメバチを団子状に取り囲みます。そして、身体を細かく振動させて熱を起こして、中のオオスズメバチを熱によって殺してしまいます。 蜂球の中心部の温度は46~48℃に達することが観測されています。オオスズメバチの耐熱温度は44~46℃で、ニホンミツバチのそれは48℃を超えます。この温度差を利用して、オオスズメバチを撃退する術をニホンミツバチは進化の過程で手に入れたのです。ちなみにヨーロッパ産のセイヨウミツバチはオオスズメバチに出合うことなく進化してきたため、対抗手段を持ち合わせておらず、オオスズメバチの襲撃に遭うとあっという間に巣が全滅させられてしまいます。 スズメバチに対してタフなニホンミツバチなら、ツマアカスズメバチにだって負けないだろうと期待されますが、ツマアカスズメバチの採餌方法は、日本のスズメバチと異なって、ミツバチの巣穴に正面切って突進するという「戦国武将的」な戦法はとらず、ミツバチの巣の周辺をホバリングしながら待機して、巣に帰ってくるミツバチを空中でキャッチして捕食するという方法をとります。実は、この捕食自体は、成功確率がそれほど高くなく、ミツバチの巣全体に対するダメージは在来のスズメバチほどではないのですが、ツマアカスズメバチはその半端ない「しつこさ」が問題とされます。相当長時間、巣の周辺を飛び回られることで、ニホンミツバチはストレスを感じて、群(コロニー)は巣を放棄して移動してしまうことになります。こうなると、養蜂が成立しなくなってしまいます。