菅首相に欠けているものは立場にふさわしい「振る舞い」だ 首相の言葉が響かない理由
政治家にとって言葉は“命”だが…
発足直後の高支持率はどこへやら、菅内閣の支持率低下に歯止めがかからない。言うまでもなく、新型コロナの感染拡大の影響が大きいが、それに加えて首相の発信力、コミュニケーション能力への厳しい論調も目立つ。 たとえば昨年12月、単独インタビューを行った「news zero」の有働由美子キャスターは、取材直後の感想として「(国民に)届く言葉はなかった」と述べている。 裏番組、「news23」の小川彩佳キャスターもインタビューをして同様の感想を抱いたようで、「私たちが今、求める言葉と総理が語る言葉のズレを感じるようなシーンも少なくなかった」とコメント。
首相は会見のたびにコロナ対策についての意気込みや覚悟のようなものを口にしているものの、それが当人や周辺が思うようには伝わっていない。 1月18日、年明けの通常国会における施政方針演説の評判も芳しくない。 翌日の主要各紙の社説を見てみよう。 「首相の覚悟が見えない」(朝日) 「役所が作った文書を棒読みするのではなく、自らの言葉で訴えなければ国民に届かない」(毎日) 「感染症の不安を解消するために今、何をなすべきか、という強い問題意識が感じられなかったのは残念である(略)これでは危機感は伝わるまい」(読売) 「通り一遍の語り掛けとなった印象だ(略)人々の心に響く言葉がほしい。菅首相は自らの演説や会見、答弁の中身に、もっと工夫を凝らすべきだ」(産経) 「必要なのは、危機を乗り越えるために国民から理解と共感が得られるような誠実な態度と言葉だ」(東京) 日頃は見方が正反対になることも珍しくない各紙がすべて一様に、首相の言葉が国民に響いていない、届いていない点を問題視しているのだ。 これは「国民のために働く」と繰り返している首相にとっては不本意なことであろう。
菅首相の言葉が響かない理由
ではなぜ、その言葉は響かないのか。届かないのか。 言葉を伝えるうえでは、「非言語コミュニケーション」が重要な役割を果たす、と説くのは劇作家、演出家の竹内一郎さんである。『人は見た目が9割』の著者としても知られる竹内さんは、新著『あなたはなぜ誤解されるのか―「私」を演出する技術―』の中で、本気で自分の考えや気持ちを伝えるには、言葉だけでは不十分で、それ以外の要素、たとえば表情、姿勢、抑揚等の「非言語情報」を考慮した「自己プロデュース」の観点が欠かせない、と説いている。 同書に書かれたポイントを踏まえながら、竹内さんに菅首相に足りない点を聞いてみた。 「政策の是非などは、私の論じるところではないので、あくまでも自己プロデュース、自分自身を演出するやり方についてですが――」 そう前置きしたうえで、竹内さんが最初に指摘したのは「立場の違い」を意識できていないのでは、という点だ。 「政治家の秘書や、首相の女房役である官房長官の時には、『表情を隠して陰の仕事をする』という立場に自らを置いてもよかったのでしょうが、首相ともなれば、そうはいきません。時に表情や感情をあらわにしないと、温かみに欠けると思われてしまいます」