父の死後、預金から葬儀費用を支払ったら相続放棄はできないって本当?入院費は?
被相続人の死亡後直ちに相続が始まります。相続は将来必ず生じる問題です。 今回は相続放棄と単純承認の違いについて説明するとともに、事例として被相続人である父の死後預金から葬儀費用や入院費用を出した場合、相続放棄が可能か否かについても解説します。
相続放棄とは
被相続人が死亡した時に、被相続人の財産に属した一切の権利義務を相続人が承継することを相続と言います(民法896条)。「財産に属した一切の権利義務」とは預金・株・不動産などのプラス財産のみならず、住宅ローン・借金・損害賠償金などのマイナス財産も含みます。プラス財産だけ相続することはできません。 また被相続人の財産がマイナス財産しかない場合、相続人は相続により負債を抱えることになります。そこで法は相続放棄(938条)という規定を設けています。 相続放棄は、相続人が相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります(915条、938条)。また遺留分の事前放棄と異なり、相続開始前に相続放棄はできません。相続放棄をすると、最初から相続人ではないとみなされます(939条)。被相続人の財産相続に一切関与ができず、相続放棄者の子への代襲相続も不可能です(887条2項)。
単純承認とは
相続に関して、単純承認・限定承認・相続放棄の3種類があります。通常の相続のほとんどが単純承認であり、相続人は被相続人の権利義務を無限に承継します(920条)。単純承認は届け出の提出など特別な様式を必要としません。意思表示のみで可能です。そして単純承認を避けるために、相続放棄や限定承認をします。ただし民法921条以下の規定により、単純承認とみなされる場合があります。 まず相続放棄が可能な期間を過ぎると単純承認とみなされます(921条2号)。また限定承認や相続放棄後に相続財産の隠匿や目録不記載などをすると単純承認とみなされます(921条3号)。大事なのは、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(921条1号)です。この文言の解釈が具体的な事例と問題点になります。