日本列島をどう守るか 過疎化に“100万人の引きこもり”が役立つワケ
「逆ホームステッド」法くらいの思い切った施策を
――やりたがる人、意外に多いと思います(笑)。 内田 フロンティアを守るのに実はそんなに頭数は要らないんです。大伽藍を守るのに「寺男」が1人いて、寝起きしているだけで十分だという話をしましたけれど、西部開拓でもそうなんです。 映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』では、ダンバー中尉(ケビン・コスナー)が南北戦争で軍功をあげた見返りに好きな任地を選んでいいと言われて、フロンティアを選びます。フロンティアが消滅する前に見ておきたいという理由で。北米大陸全体が私有地に分割される前に、誰のものでもない大自然が広がっている風景を見たいと思った。彼が配属されたのはサウスダコタ州の砦なんですけれど、砦と言っても、あるのは丸太小屋だけ。そこに彼が1人で暮らす。砦ひとつで広大な辺境地域をカバーしている。軍務なんて実は何もないんです。そこにいるだけでいい。暇なので狼と踊っている。 この映画が教えてくれるのは、見渡す限り人煙の絶えた草原のただなかに人が1人いるだけで、そこが「フロンティア」になるということです。そこが文明の最前線となる。大自然に向かって、「ここは人間の土地だ」と宣言している人間が1人いるだけで、自然はそれ以上侵食してこない。その「歩哨」としての責務を果たしているだけで、ダンバー中尉は彼に課された軍務を100パーセント果たしており、そこから深い達成感を得ることができる。 農村人口を増やし、里山のフロンティアラインを守るには、「逆ホームステッド」法くらいの思い切った施策が必要だと僕は思います。土地は果たして私有すべきものなのか。私有してよいものなのかという問いを含めて、日本列島をどう守るかという課題を文明史スケールから捉え直すことが必要だと思います。 内田樹(うちだ・たつる) 1950年東京生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞。他の著書に、『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『街場の天皇論』『サル化する世界』『日本習合論』、編著に『人口減少社会の未来学』などがある。
内田 樹/ライフスタイル出版