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【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授

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ニューズウィーク日本版

新型コロナ対策で接触機会の「8割削減」を提唱し、数理モデルによる「42万人死亡説」が悲観的すぎたと一部で糾弾された西浦博・北海道大学教授。予測はどのようにしてはじき出されたのか。称賛と批判の渦中にある教授が本誌に特別寄稿。

※本誌6月9日号「検証:日本モデル」特集より 【西浦博(北海道大学大学院医学研究院教授)】 【動画】マスク姿のアジア人女性がNYで暴行受ける 2020年5月21日、日本政府は4月7日に発出した緊急事態宣言を特定警戒都道府県の関西3府県で解除し、25日には東京を含む残りの5都道県でも解除した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波を乗り越えつつあることを受けての決定であり、日本は欧米のような感染爆発を免れた。 外出自粛要請や休業要請が約1カ月半に及ぶなか、その途上では「自粛の要請で大丈夫なのか」「ロックダウン(都市封鎖)はいらないのか」という声も聞かれ、他方で終盤には、「経済が逼迫していて自粛どころでない」という切実な声も上がった。都市部や北陸の医療現場は3月後半から入院患者数が日に日に倍増するなかでの対応となるなど、現場で働く方々の毎日の努力と行動のたまもので何とか収束に向かうことができた。皆さんが各自の生活でご尽力いただいたことに、1人の研究者として御礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。 そして今、第2波のリスクに対峙するに当たっては、被害の想定と取るべき対策をめぐるコミュニケーションについての問題点を改めないといけないと考える。それは、4月15日の記者会見で筆者が話した「何も流行対策を施さなければ、日本で約85万人が新型コロナウイルスで重症化し、その約半数が死亡する」という試算(モデル)が、「42万人の死亡の想定」というメッセージとしてクローズアップされ、前提条件やメッセージの真意から外れて数字が独り歩きしてしまったことを振り返り、強く思うことだ。 このメッセージでは被害想定に加えて、取るべき対策の提案が必ずしも十分に備わっていなかったかもしれないと思う。シミュレーションに基づくアナウンスには、科学者の極論としての意味合いがどうしても強くなってしまう。「何もしなければこのような数になる可能性があるが、接触の削減を徹底すれば実際にはかなり低く抑えられる可能性がある」というメッセージと、「少しでもこの数を減らすために皆で対策をするほうがいい」というメッセージが上手に伝えられなかったと感じている。 死亡者数の被害想定は、あくまで「流行対策をしない」という仮定の下で計算されているので、実際に観察されたのがそれを下回る700人台(5月中旬時点)の死亡者数であると、「モデルが間違っていた。自粛なんてする必要がない」というような誤解も生じかねない。大規模な流行が防がれたことによって感染者数の爆発的な増加が防がれたわけであり、流行が拡大すると今度は制御が困難になり得ることは改めて覚えておかないといけないと思う。 コミュニケーションをめぐるもう1つの課題は、対策の根拠とされたモデルの透明性についてである。どのような数式やパラメータを使用して算出しているのか見えづらい、分かりづらいという声も聞こえてきた。 本稿では日本における第2波に備えて、まずはこれまでに用いてきたモデルの根拠をかみ砕いて示すことに努めたい。また、いわゆる「集団免疫」と言われる状態に関する最新の知見を紹介し、それと同時に、被害想定で抜け落ちている重要な要素に関して現時点で得られている科学的知見を更新しつつ整理してみたいと思う。

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