【80年ぶり】恒星の爆発で“新生命”は生まれるのか 星の世界にある「命のバトンリレー」とは?
今年の8月、星が爆発して「新星」が見られるかもしれないとニュースになりました。 「かんむり座T星」という恒星で、過去1866年と1946年に爆発を起こしています。ふだんは肉眼では見えませんが、爆発が起こると、都会でも見られる明るさになると期待されています。 約80年ぶりの天体ショーが見られると注目されてから、なかなか爆発は起きていませんが、まだこの10月に見られるチャンスは残されています。 夜空の何もなかったところに突然星が輝き始める現象を「新星」といいます。その中でも、ひときわ明るいものを「超新星」といいます。
名前は似ていますが、起きている出来事は異なります。 ■星の表面の爆発か、星全体の爆発か 超新星は、「恒星全体が爆発」する現象です。さきほど説明した、太陽よりも重たい恒星が死ぬときに起きる超新星爆発が、その一例です。 新星は、「恒星の表面が爆発」する現象です。爆発を起こすのは、白色矮星です。白色矮星の近くに別の恒星があり、その恒星から白色矮星に向けてガスが降り注いでいる場合、突然、ボカンと爆発を起こすことがあるのです。
爆発を起こした白色矮星は粉々に消えてなくなるわけではないので、降り注いだガスがたまると、また爆発を起こします。「かんむり座T星」はその周期が約80年だと考えられています。 今年5月に発表された論文によると、白色矮星の表面が爆発するときに、「リン」が大量に生み出されるそうです。リンは、生き物を形づくる細胞の1つ1つを包みこむ細胞膜に含まれています。遺伝子や骨、歯にも使われていて、「生命に欠かせない大切な元素」です。
まとめると、地球上にある物質は、「恒星の核融合反応」「超新星爆発」「中性子星の合体」「白色矮星表面での爆発」などでつくられた元素から成り立っている、ということです。 「人は星の子」「人は星のカケラ」という言葉を聞いたことはありますか? 私たちの体を形づくる元素も、元をたどると星とつながっているのです。 さまざまな元素を生み出す現象は、宇宙で普遍的に起きています。つまり、惑星や生命をつくるための材料は、宇宙のあちこちにあるわけです。
とすると、この宇宙のどこかには、地球と似たような惑星や生命、あるいは、人類の常識を超えた、新しいタイプの惑星や生命が存在しているかもしれません。 星の営みを理解する研究は、地球の生命や宇宙の生命を理解することともつながっているのです。 宇宙で起きる圧倒的で非日常的な出来事が、地上で暮らす私たちと無縁ではないとは、じつにおもしろいですよね。 ぜひ日常の風景を見ながら、夜空の星とのつながりを感じてみてください。
井筒 智彦 :宇宙博士、東京大学 博士号(理学)