時計業界の風雲児マニュエル・エムシュCEOに聞く新生「ルイ・エラール」の次なる一手
圧倒的なクオリティと手の届く価格のバランスの取り方
クオリティを上げていくことは当然コストが嵩むことと直結する。ルイ・エラールは魅力的な価格も特徴のひとつだが、そのバランスはどのようにとっているのだろうか。 「現在、ルイ・エラールは約80%をスイス製とするほか、量産化を目指さないことで品質と価格の調整を図っています。私にとって生産本数を増やすことは重要ではありません。それよりもディテールの完成度を高め、クオリティを追求していくことの方が大切なのです」 実際、年間生産本数は以前の2万本から4000本弱へと減少させたそうだ。そうであれば、サプライヤーの変更も納得のいく話。一方で時計の製造本数が絞られれば流通量も減少する。これもエムシュ氏のプランに織り込み済みだった。 「あらゆる店舗に広く置かれるような拡大路線ではなく、ブランドの方針を正しく理解してくれるショップを厳選していきたいと考えています。エナメルやマルケトリなどのクラフツマンシップを駆使した素晴らしい時計を作っているという自負がありますし、それらの製造本数はどうしても限られますからね。先ほどもお話ししたヴィアネイ・ハルターとのコラボレーションは第1弾が3500スイスフランだったのに対し、第2弾となる新作では4444スイスフランとなっています。この価格差にはインフレやパーツの高騰などの要因もありますが、何よりもクオリティを格段に上げたのがその理由です。同様の価格帯でコレクションを展開するブランドが数多くある中で、このやり方だけがルイ・エラールの未来を築いていくものだと私は確信しています」
エムシュ氏が参画してからブランドのアトリエも縮小したという。その中でもプロダクション部門に最も多くの人材を配属させるところが新生ルイ・エラールらしい。 「ブランドがスピンオフした2000年代前半からルイ・エラールに勤めている方もいますし、現在の従業員の勤続年数を平均すると大体12年ぐらいでしょうか。すごく良いチームワークができていると思いますね。昔の自分は若くして要職に就いていたこともあり、あまり人間関係が得意ではありませんでしたし、それが原因でいくつもの失敗を重ねてきました。そうした経験から、人それぞれにリズムであったり、自由があることを学んだのです。良い時計を作るには、チームワークが良好であることは欠かせません」