反プーチン運動で獄死した「ナワリヌイ氏」が“政権ズブズブ企業”を追い詰めた意外な方法
2024年2月、北極圏にある刑務所で死亡したロシア反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏。弁護士資格を持ち、金融・信用分野の学位を持つナワリヌイ氏は、ブログを活用することで、プーチン政権と蜜月関係にあるオリガルヒ(新興財閥)の不正を世に知らしめていった。同氏が獄中で書き続けた文章から浮かび上がる、ロシアの汚職の“日常”とは――。 【写真を見る】妻は帰国すれば拘束の危機 娘は米スタンフォード大を卒業後、ハリス陣営のスタッフに (前後編の後編) *** ※この記事は『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』(アレクセイ・ナワリヌイ著、翻訳・斎藤栄一郎/星薫子、講談社)の内容をもとに、一部を抜粋/編集してお伝えしています。
国の統制下にある大企業
私は、「ライブ・ジャーナル」(註:ネットユーザーがブログや記事を掲載できるサービス)へのブログ投稿を、ロシア内で検閲を受けない最大規模のニュース源にしようと決心していた。2012年には、このブログはロシア全土で読まれるようになっていた。投稿内容は、常に自分が関心を持っていて、はっきりと確信が持てるものにした。その一つが、プーチン体制は汚職を基に成り立っているというものだった。 弁護士である私は、汚職には常に悩まされていたが、近年、公然と行われるようになった原因は、プーチンとその統治体制にあるはずだ。ロシア人は誰もが汚職について知っていたし、私は何かしなければと思っていた。そのためには、汚職との闘いにふさわしい資格を備えた仲間が必要だ。相手はプーチン配下の汚職にまみれたオリガルヒと官僚たちなのだから。 しかし、何を訴えればいいのだろうか? 法的な告発者でない私が、彼らを法的に追及するにはどうしたらよいだろうか? 私はそのころすでにロシア連邦政府付属財政大学を卒業し、金融・信用分野の学位を持っていたので、株式市場と為替の仕組みを理解できた。そこで思いついたのが、明らかに汚職に関与している国営企業の株を購入することだった。たとえ少額でも投資をすれば、株主としてその企業の資料を要求したり、苦情を申し立てたり、裁判に訴えたりできるようになる。しかも年次総会にも出席できる。 私はいくつかの企業の株式をそれぞれ5000ドル分ほど購入した。ロシア最大の石油企業であるロスネフチ、最大のガス企業ガスプロム、石油パイプライン企業であるトランスネフチなどだ。どれも巨大で、潤っており、国の統制下にある企業で、相手にすると大変なことになると思われた。 もし攻撃しようものなら、屈強な男たちが「余計な質問をしやがって」と乗り込んでくるだろう。権力者の知り合いもいない一介のブロガーがこうしたリスクをおかすとは、誰も(当の企業ですら)想像しないだろう。そんなことをする人物には間違いなく権力の後ろ盾があるはずだ。しかし、私には何の後ろ盾もなかった。財務の知識があり、自分の権利を理解しているだけだった。