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FBIやCIAも注目する「知覚の技法(The Art of Perception)」とは何か? 主宰のエイミー・ハーマンが語る

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美術手帖

 「知覚の技法(The Art of Perception)」は、端的に言うと、人間の「見る」という行為の不完全さを浮き彫りにするプログラムだ。視界のなかにあるものに注意がいかない非注意性盲目、目の前で起こる変化に気がつかない変化盲、個人的なバイアスなど、「見る」ことには様々な落とし穴が存在するが、人はどうしても自身の「見たこと」を過信してしまう傾向がある。同プログラムでは、美術鑑賞を通じてこれらの欠点に気付き、観察力を鍛えることを目的としている。作品を愛でたり、美術に関する教養を高めたりすることは、プログラムの狙いではない。意識して作品を見ることで、どれだけ自分がものを見られていなかったか、客観的・全体的にものを見るには、どれほど訓練を要するものなのか、その訓練を積むことでどれくらい自分を取り巻く世界が変わって見えてくるのか、参加者は体験しながら学んでいく。 * ──ご自身のバックグラウンドについて教えてください。  もともと大学で美術史を学んでいたのですが、方向転換しロー・スクールに進み、弁護士になりました。しかし、日々訴訟を取り扱うのは気質に合わず、法律事務所を辞め、美術業界に移りました。ブルックリン美術館で、資金調達部門の弁護士を務めたあと、フリック・コレクションの教育部門に入り、仕事のかたわら、夜間コースで美術史を学び、学位を取得しました。 ──「知覚の技法」の成り立ちは?  プログラムの原型は2000年にフリック・コレクションでスタートしました。イェール大学と提携し考案したプログラムで、はじめは医学生を対象にしたものでした。学生を美術館に連れて行き、美術鑑賞の仕方を教えることで、医療の現場に戻ったときに患者をよりよく、より効率的に観察できるよう育成するのが目的でした。  学生たちの反応は非常によく、手応えを感じているという話を友人にしたところ「観察力が不可欠な業種は他にもあるだろうから、プログラムの対象を拡大したらどうか」と言われました。そして試しにニューヨーク市警にプログラムの受講を提案したところ、趣旨は思いのほかすんなりと伝わり、半年後には同市警対象のプログラムがスタートしました。その後、ウォール・ストリート・ジャーナルがこの試みを取り上げ、世界中から問い合わせが入るようになりました。  プログラムは警察、FBI、CIA、軍などを中心に展開していきました。参加者各々の目標はありましたが、共通していたのは「観察力を高めたい」ということでした。医師、警察官、軍人など、緊急性の高い業務に就く人々にとって、観察力は非常に重要なスキルになります。また個人として、よりよく生き、子供やパートナーといった身の回りの人とよい関係を築くためにも大切なスキルでもあります。プログラムのゴールは、アート作品を通じて、認識力・観察力を高めること。これは受講者が誰であろうが変わりません。  2007年にフリック・コレクションから独立し、以降、医療関係・投資家・企業・警察・政府機関・災害対策機関など幅広い分野を対象に、プログラムを提供しています。ニューヨークに住んでいますが、通常ひと月のうち20日ぐらいは、プログラムのために国内外を飛び回るような状況です。コロナウイルスの影響を受け、いまはオンラインでの開催も視野に入れようかと検討中です。 ──「知覚の技法」のプログラムの内容はどのようなものなのですか?  美術館で行う場合と、オフィスでスライドを見ながら行う場合がありますが、基本は同じです。参加者を数名ずつのグループに分け、選んだ作品を5分間、ただ観察してもらいます。美術館での場合は、作品ラベルを見ることを禁じています。その後、目にしたものをグループ内で各自説明してもらいます。「花瓶に木の枝が差し込まれている。花瓶の色は複数からなる」といった具合です。そして各グループに、受講者全体の前で、どのような作品なのか出来る限り明確に説明してもらいます。この演習を通して、どうやってものを見るか、どうやって効率的に見るか・伝えるかを学ぶことになります。  参加者のほとんどはアートに馴染みがありません。そのため、アートに関する知識を競う必要はなく、参加者は楽しみながら演習に取り組めます。いつも不思議に思うのですが、アートには人を尻込みさせる威圧感がないようで、どんな参加者も必ず作品のなかになにかしら興味深いものを発見していきます。私の方では、彼らに「今日のセッションで発見したことを、どう自身の仕事につなげられるかを考えて欲しい」と促します。 ──参加者は具体的にどのようなことを学んでいくのでしょうか?  FBIエージェントの例で言うと、参加者は監視プログラムに従事するスタッフです。彼らは、テロリストたちの行動監視を担当します。ベルギーでテロがあったとしましょう。その容疑者がアメリカに住む数名とつながりがあるとわかると、それらの人物の監視を開始し、日々観察したことを報告するのが彼らの仕事になります。彼らがプログラム受講後に言うのは、「何に注意し、何について報告すればいいのかというのは知っていたが、何が欠けているか、何を見なかったかに注意を払う大切さはこのプログラムで学んだ」ということです。また彼らの業務では、無線でのやりとりが多く、目にしたもの、目にしなかったものを、客観的に的確に伝達することが大事になるので、その点でもプログラム内の演習は役立ちます。  看護師の場合で言うと、彼らは、患者をチェックしたあと報告書に容体を「通常の範囲内」と記述することが多いそうです。包括的で便利なので、頻繁に使われるフレーズだそうですが、問題はこの「通常」が見る人によって異なることです。「通常」という記述のなかで見過ごされる小さな差異が、あとで命取りになることもあるので、少しでもいつもと違うことに気がついたら、チームのメンバーにはっきりと伝達すべきなのです。演習を通じて、参加者は自分の見方がいかに主観的であるかに気付いていき、「アートを通じて観察眼を鍛えることで、患者の見方が変わった」という感想をよく聞きます。「自分と同じものの見方をする人はいない」ということを、プログラムでは強調していきます。  さらに参加者たちには、自分の見たものを明確に伝える重要性を説いています。それは、複数の視点を持つことでよりよい決断ができ、物事には必ず複数の見方が存在するのを理解することで世界とより深く関われるからです。人々に今までとは異なった方法でコミュニケーションを取ることを促すためにアートを活用しているといえます。 ──これまで出てきたスキルは、いまのような非常事態でも重要であるように感じます。  日頃から私は人に対し、フレキシブルでいる必要性と、凝り固まった視点から世界を見ていても何にもならないことを訴えています。アートは、大きな視野で物事を見る機会を私たちに提供してくれます。参加者にこれまで繰り返し伝えてきたことではありますが、いまこの状況下で、その大切さを自分自身でも改めて感じているところです。

聞き手=國上直子

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