第93回選抜高校野球 準決勝 天理、奮闘もあと一歩 応援席、鳴りやまぬメガホン /奈良
<センバツ2021> 天理の春が終わった――。第93回選抜高校野球大会第10日の31日、24年ぶりの準決勝に挑んだ天理は、決勝進出をかけて東海大相模(神奈川)と対戦、力及ばず、0―2で惜敗した。この日はエース、達孝太投手(3年)が脇腹を痛めて登板せず、仲川一平投手(同)が先発マウンドへ。八回1失点の力投を見せたが、打撃で援護できず、目指した頂にあと一歩、届かなかった。「ここまで、よく頑張った」「お疲れさま」。スタンドは、選手をたたえるメガホンが鳴りやまなかった。【広瀬晃子】 ◇エース不在 不在のエースに代わって登場した仲川投手は、仙台育英戦に続く2度目の登板。3月30日、家族の元に先発を知らせる電話があったという。野球部OGでマネジャーを務めた姉理世さん(21)は「『えー』と家族全員で驚いた。(弟は)やるしかない、と覚悟を見せていた」という。 しかし、一回表から相手打線に火が付く。1死から左翼への安打を許すと、2死後も安打を浴び、1点を先制された。取り返そうと迎えた1回裏、先頭打者の内山陽斗主将(3年)が外野フライに打ち取られるが、木下和輔選手(同)が中前打を放つ。同点への期待が高まったが、4番、瀬千皓選手(同)ら後続も連続三振に倒れ、嫌な空気が漂い始める。その後も、相手投手の好投に阻まれ、いつもの天理打線は沈黙したままだ。 ◇1点の壁に 六回裏、ようやく好機が訪れる。初戦からの3試合全てで適時打を放ってきた政所(まどころ)蒼太捕手(3年)が左中間への2塁打で出塁、スタンドも「おー」と盛り上がり、「もう1本」の声。しかし、この回も後続につなげず、1点の壁を突破できない。 八回表には、あわや本塁打かという大きな当たりにヒヤリとする場面も。何とか切り抜けた九回表、継投した南澤佑音(ゆうと)投手(2年)の暴投で1点を与え、2点のリードを許す。絶体絶命で迎えた九回裏、2死で長野陽人選手(3年)が代打に起用されると、スタンドからは「お願い、打って」の声。しかし、必死の祈りは届かず、バットはむなしく空を切り、ゲームセット。 プレッシャーの中、相手打線を1失点に抑えた仲川投手の母百世さん(54)は、「一回で交代させられると思ったけれど、八回までよく投げてくれた」と健闘をたたえた。途中、投球練習する場面も見られた達投手の姿は、ベンチにあった。「孝太も投げたかったと思うが、全員野球で頑張ってくれた。夏に必ず帰ってきてほしい」。母るみさん(44)は、潤んだ目でグラウンドを見つめ続けた。 ◇市役所の職員、手作りで人形 ○…天理を応援する市役所ロビーの展示コーナーに置かれたユニホーム姿の“球児人形”。甲子園での活躍を願って作られた、田中啓之広報室長(56)のお手製だ。人形はフェルト製で、本物そっくりのユニホームを着せるなど、細部まで忠実に再現。ヘルメットやスパイクは紙粘土で、手にしたバットはアイスクリームの棒を代用している。 業務時間外に作業に励み、大会前には市長表敬に訪れた中村良二監督や内山陽斗主将(3年)らを、選手らの写真などをあしらったウエルカムボードで出迎えた。華やかに飾り付けたロビーの展示を見た内山主将は、「応援の気持ちがひしひしと伝わってきた」と笑顔を見せていた。 1日付で別部署に異動する田中室長。ナインらの大活躍に、「全国に実力を示してくれ、市民も元気をもらった。夏につながる大きな一歩だと思う」とたたえた。【広瀬晃子】 ◇同級生にエール ○…「なんとか1本打ってほしい」「とりあえず1点取ってくれたら」。七回裏、打席に立った成田侑介選手(3年)をスタンドから祈るように応援したのは、中学時代のチームメートで兵庫県立出石高の田守翔哉さん(同)。2回戦に続き、この日も片道2時間半以上かけて甲子園に駆けつけた。成田選手は「周りがよく見える4番キャプテン、頼りになる存在だった」と田守さん。活躍する姿を「本当にうれしい」と喜んだが、天理打線は相手投手を攻略できず惜敗。それでも「まだ夏がある。もう一度、甲子園目指して頑張って」と最後までエールを送っていた。【林みづき】 ◇夢見た応援席で ○…天理高を卒業したばかりの武田理子さん(18)が、グラウンドを躍動する選手たちにエールを送った。2017年夏の甲子園でアルプス席を華やかに彩る天理のバトントワリング部の姿に憧れ、進学。同部に入り、甲子園での応援を待ち望んだが、コロナ禍で昨春のセンバツは中止に。夏のセンバツ交流試合でも制限があったため、アルプス席での応援はかなわなかった。試合後、「やっぱりポンポンを持って甲子園で応援したかったです」と残念がったが、今大会の選手たちの活躍に「夢をかなえてもらった気持ち。夏も必ずここに応援に来ます」。【隈元悠太】 ◇後輩の姿胸熱く ○…この春、天理高を卒業した硬式野球部OBの河村拓民さん(18)は進学先の東京から応援に駆けつけ、一塁側アルプス席で後輩たちに声援を送った。中止となった昨春のセンバツで、「9」の背番号をつけて甲子園のグラウンドに立つ予定だった。この日の試合前、球場入り口で恩師に会い、「君たちの分も後輩が頑張ってくれる」と声をかけられた。胸が熱くなった。残念ながら決勝進出はならなかったが、試合後にアルプス席に一礼する後輩たちを「4強までよく頑張った。夏には日本一の姿を見せてほしい」と温かい拍手でねぎらった。【隈元悠太】 …………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇けが乗り越え 成長実感 天理 内山陽斗主将(3年) 甲子園でプレーできていることが「夢のよう」だった。 今年2月、右膝を手術した。2度目の手術だった。それでも膝の調子は戻らず、練習を離脱。「もう、だめかも」。焦り、主将としてのふがいなさも感じた。大会前に決断し、膝に負荷がかからない打撃フォームに変更した。これが「けがの功名」となった。 力まないスイングができ、ミート力も増した。今大会、2回戦の健大高崎戦では先制点につなげる安打を一回に放ち、準々決勝の仙台育英戦では2点適時二塁打を放って相手を突き放した。 準決勝。膝に再び痛みが出て、テーピングをして試合に臨んだ。九回裏、この日4回目の打席が回ってきた。だが反撃の口火を切れず、後続も抑えられ、ゲームセット。泣き崩れるチームメートの肩をさすり、「しっかり次(夏)に向けてやろう」と自身への決意も込めて話した。 大会前の「故障」を乗り越え、心が強くなったと感じる。副主将に支えられながらも、主将としての自信もついた。「すごく悔しい。もう一回ここで、甲子園で試合をしたい」【広瀬晃子】 ……………………………………………………………………………………………………… ▽準決勝 東海大相模 100000001=2 000000000=0 天理