バブル崩壊で芸者激減、街から人が消えて“シャッター商店街化”…山梨県の“ナゾの歓楽街”「石和温泉」がそれでも衰退しなかったワケ
買い手は、おもに中国系企業である。こう聞くと地場の日本企業との関係に不安はないのか心配になるところだが山下氏は否定する。ゴミの出し方などで初期は認識の違いが起きたが今では修正し、彼らも旅館組合や観光協会に加盟してくれてもいるという。
現在の石和では、外国人観光客がホテルへと吸い込まれていく
私が取材で訪れた日も観光バスから続々と外国人観光客がホテルへと吸い込まれていく風景がみられた。現在多いのは、タイ、台湾、香港、ベトナムなどからの観光客だ。温泉ももちろん彼らの目的にあるが、夏場、ぶどうなどのフルーツピッキング需要が大きい。コロナ禍によって令和3年には約2.5万人まで激減した石和への外国人来客数はふたたび増加に転じ、令和4年には約17万人ほどまでに回復してきている。 もう一本の柱は意外だった。医療的側面からの観光である。 コロナ禍中、落ち込む温泉地に、観光庁から「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」ということで、各旅館に施設改修費の半額までの補助金が出ることになった。無色透明、石和のアルカリ単純温泉は肌触りが良く湯あたりしにくいと言われ、リハビリに適した泉質と医療関係者から以前より評価されていた。各温泉旅館はここに着目し、バリアフリー化を進めていったのだ。笛吹市観光商工課の中山陽介氏はいう。 「石和温泉地域だけで7つもの温泉病院、リハビリテーション病院があるんです。各ホテルさんが、たとえば車椅子でも利用できるユニバーサルデザインを取り入れた施設へと改装したり、身体に障がいがあっても温泉を利用できるように、医師会や旅館組合と研究も続けています」 高齢や障がいの有無にかかわらず、誰もが安心して楽しめる旅行を、「ユニバーサルツーリズム」と呼び、石和でも取り組みが進む。リハビリ患者とその家族の需要が近年生まれてきた。また、これまで3部屋だったスペースをゆったりと2部屋に仕立て直したり、大広間をラウンジに改修したりと、団体向けの画一さからの脱却を図り、客層も団体から個人、男性客たちから家族連れへの転換もはかろうとしている。