【モビリティ】経済効果は8.5億円?自動運転バスが実用化されている茨城県「境町」の挑戦
自動運転と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。AIを搭載したスタイリッシュな車両がさっそうと走り抜けていく、人とAIが対話をしながら安全かつスピーディに人を運んでくれる、そんなイメージを持つ人も多いでしょう。 【写真】自動運転バス「アルマ」を見る そうとらえると、自動運転なんてまだまだ未来の技術、と思う人が少なくありません。しかし実際に自動運転を既に地域の足として活用している地域がいくつかあるのをご存じでしょうか。 今回は茨城県境町の事例をご紹介したいと思います。
「運転免許返納をしたいけれどもできない」高齢者の移動手段の確保が課題に
境町は千葉県に近い利根川流域に位置し、2021年8月からは東京駅から高速バス1本でアクセス可能となっています。この町では2020年11月から、全国自治体で初めて自動運転バスの定時運行が開始され、住民の足として自動運転車が走っています。 何もわざわざ自動運転でなくたって、と思う人もいるかもしれません。しかし人生100年時代といわれる日本において、モビリティ、すなわち移動は大きな課題となっています。 移動手段として、都市規模が小さいほど自家用車への依存が高い傾向にありますが、高齢化に伴って運転の安全性が問われるようになると、高齢者の移動手段の確保が多くの地域で課題になっています。 2019年に池袋で発生した高齢ドライバーによる自動車暴走死傷事故は、日本中に大きな衝撃を与え、高齢期の移動手段について考えるきっかけとなりました。運転免許返納をしたいけれども、生活のためにできない。買い物や病院にどうやって行ったらいいのか。家族の送り迎えをしてきた人が免許返納をしたら、一度に家族みんなの移動手段が途絶えることもあります。
都市部以外の公共交通事業者は基本的に「赤字」
今日の日本では、バスやタクシーなどの公共交通において、深刻なドライバー不足とドライバーの高齢化が課題となっており、自家用車の代替となるモビリティを簡単に確保できない状況です。 都市部以外の公共交通事業者は基本的に赤字であり、路線統合や減便が各地で進んで利便性も低下しているので、地方において「自家用車がダメならバスを使えば」という論理は的外れなのです。 ユニバーサルデザインとしての構造になっていない公共交通は高齢者に避けられる傾向もあるので、「足が悪くなってきたから自家用車」との選択をする人もおり、都市部では公共交通があるから大丈夫、という状況でもないのが実態です。 こうした中、モビリティの課題解決のソリューションとして注目されているのが自動運転技術です。無論、その性能や走行スピードは開発途上にあります。 しかし、その昔、交換手(人間)がジャックを差し替えることでつながっていた電話(有線)が、「いつでもどこでもつながる」無線電話となり、インターネットを介して大量のデータの送受信までもができるようになったように、私たちは今、大きなイノベーションの入り口にいると考えられます。 今日、全国で自動運転の実証実験が開始され、一部では既に社会実装されています。 これらの小さな流れが、高齢社会における移動手段確保や移動の安全性確保といった課題解決の力強い流れとなるには、社会全体で技術や仕組み、ルールなどを育てていく必要があります。