おやつなのに「ご飯のおかず」として人気…受刑者200人の声を料理研究家が再現した「刑務所ごはん」のリアル
罪を犯して刑務所に収容されている人々は、日々どんな食事をとっているのか。受刑者の更生支援を手掛ける団体「ほんにかえるプロジェクト」が、獄中の200人に行ったアンケートから浮かび上がる“塀の中”の食事事情とは――。 【写真を見る】夕食の再現例 ※本稿は汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)の一部を再編集したものです。料理の写真は、同書の調査を基に料理家が再現したものです。 ■刑務所での一日の食事スケジュール たとえば、処遇指標“LB”(刑期が10年以上の、犯罪傾向が進んでいる男性)を収容する宮城刑務所での朝食であれば、午前6時50分に起床、点検ののち、7時10分に配られる。 麦飯と味噌汁に、わずかばかりの副菜が二品つく。漬物類、佃煮の缶詰、ふりかけといった既製品が中心だ。 納豆、ねり梅、ピーナッツみそ、菜物のおひたし、厚焼き玉子なども献立に見られるが、“きな粉”が副菜の一品として登場することが多いのに驚く。宮城で20年を過ごしたという元受刑者によれば「大さじ山盛りほどのきな粉に砂糖を混ぜたもの」だそうだ。これを米7:麦3で炊いた麦飯にまぶして食べる。服役したことのある者にとっては馴染み深い味だろう、と彼は言う。 彼は、と書いたが、もちろん受刑者は男性ばかりではない。ただ、男性が圧倒的多数なのは事実だ。「ほんにかえるプロジェクト」の200名ほどの会員の大半が長期受刑者だが、そのうち女性会員は現在4名しかいない。
■昼食はボリュームしっかり 忙(せわ)しなく朝食を終え、平日であれば出房して刑務作業の工場へと移動する。作業開始は7時50分だ(※これは夏季処遇であり、冬場は全体的に時間が若干早まる)。ただし、刑務所の食事を用意する炊事工場の受刑者は早朝4時過ぎには起床し、朝食の支度に取りかかるという。 わずかな人数で、数百名から千名ほどの受刑者の食事を整えるのだから力のいる大仕事だ。時間までに全受刑者の配食を間違いなく終えてしまわなければならない。熱を使う調理場の夏場の暑さは苛酷を極め、冬場の早朝は凍てつく寒さだ。「炊場(すいじょう)に回されるのは、若くて真面目な受刑者であることが多い」と前出の男性は語る。 12時の昼食はそれぞれの工場に配られる。パンや麺類が出されることもあり、副菜のバリエーションも豊富で、ボリュームも充実している。昼食が一番の楽しみという受刑者は多い。 昼食後の短い休憩ののち12時半には刑務作業が再開する。14時半から10分の休憩をはさみ、作業終了は16時半だ。 ■夕食は16時50分、夜の空腹がつらい まだ日の残る16時50分に夕食となるが、それからの夜は長く、空腹に襲われる。食料を隠し持つことは許されていない。もし見つかれば懲罰の対象となってしまう。 懲役を終えて外の社会に出たなら食べたいものがたくさんある。長期の受刑者には特にそのような思いが強まる。 無期懲役に服して25年目を迎えた受刑者は、「私がここに来た当時は今よりも断然“味が濃くて”美味しかった!」と言って在りし日を懐かしむ。今と比べれば味付けもしっかりとしていて量も多く、料理のバリエーションも豊富で、満足感が味わえた。しかし、今日ではそのようなことも減ってしまった。食中毒などが起きるたびに規制が加わり、かれこれ10年くらい生の野菜や果物は食べた記憶がないと嘆く声もある。