”すっからかん”で挑む瑛人──「君のドルチェ&ガッバーナの香水のせい」でこうなった?
またたく間にブレイク
2020年の彼の身には、とてつもない急激な変化が訪れていた。いわば大ブレイク。SNSの動画サービスTikTokの”歌ってみた”動画で話題となり、そこからApple Music、LINE MUSICの総合チャート1位を獲得した。その後、テレビ番組の『ミュージックステーション』に出演し、テレビの生放送で『香水』を披露する。さらにはCMタイアップの仕事を手掛けるようにもなった。”ネットでバズった歌”の作者は、あっという間にお茶の間レベルで誰もが知る顔になったのだ。とはいえ、瑛人は、そんな現実を完全にはまだ受け止めていないようなのだが。 そもそもあの曲はどう生まれたのか。『香水』のヒットを本人に分析してもらう。 「おれが分析ですか? やっぱり”ドルチェ&ガッバーナ”の部分ですかね……? 自分ではよくわからないです」 海外の高級ブランドの名を思いっきり日本語読みの韻で踏んでいく大胆なサビ。ここが曲の最大のインパクトなのは間違いない。 「メロディーとフレーズが同時に浮かんできて、すぐボイスレコーダーに吹き込んでたんですよ。なんだこれは、って。”あれ、これだせえのかなあ”って不安でした。自分でもちょっとわかんなかった。曲のサビ以外のパートも、ほぼ同時期に考えていたことをつなぎあわせたんです。思い浮かんだときにレコーダーに残して、あとで家に帰って録音したりして完成させていった。でも、ずっと配信する直前まで、これで大丈夫かなあと思い悩みながら配信したんです」 瑛人にシンガー&ソングライターになろうという思いはあった。ただ、それは子ども時代からの憧れといったようなものではなかった。20歳くらいのときに、そう思うようになり、作曲を学んだ。そして、頭に浮かんだメロディーとフレーズをギターをバックに吹き込んでみた。それが『香水』で、それがいきなり大ヒットしてしまったのだ。 音楽配信サービスで発表したのは2019年の4月。このときは、とある無名のインディーズミュージシャンが、人知れずデビューしただけのことだった。しかし、約1年ののちに、これに火がついた。その1年のあいだにも曲の発表を続けているが、デビュー前にたくさんのストックがある通常のアマチュアミュージシャンとは違い、ストックはほとんどなかった。それゆえ、アルバムを出そうという提案があったとき、ハタと気づいたことがある。 「アルバムタイトルどうしようと思ったんですが、正直、俺ってすっからかんだしなって。アルバムを出したらストックは0。その後は、また1からのスタート。でも、まだ短い音楽人生ですけど、このアルバムには、そのなかで俺が生きてきて思ったことや作ってきた曲たちをすっからかんになるまで、詰めこみました」 このアルバムには、俺が生きてきて思ったことや作ってきた曲たちをすっからかんになるまで、詰めこみました 2021年1月1日に発売された初のアルバムのタイトルは、なんと、『すっからかん』である。おおらかでもあり、正直でもあり、飾りも、韜晦もないタイトルだ。等身大といえば等身大の極みでもある。とはいえ、いまや瑛人は、シンガー&ソングライターとしての道を歩み始めている。 「11月までには3、4曲作るってことになったんですね。いつもは自分が思ったことを好きなタイミングで歌にしてきたんですけど、『ライナウ』って曲でははじめてお題をもらって曲を作ってみたり、打ち込みの楽曲にも挑戦してます」 こうして瑛人は、ミュージシャンとしての次のステップに向かっている。だが、いまはひたすら目の前の課題に取り組んでいる段階で、ここから先の音楽のキャリアを、長期戦略で考えているわけではない。 一日中ずっと音楽のことを考えているわけではないというか、ほぼ考えていないんです。その意味でも”すっからかん”。でも、それが大事なんだと思うんですよね 「俺は音楽マン、音楽マン、ってしてないタイプなんだと思います。一日中ずっと音楽のことを考えているわけではないというか、ほぼ考えていないんです。その意味でも”すっからかん”。でも、それが大事なんだと思うんですよね。で、これから先、俺は何に向かっていくのか。いつも思っているのは、いかに気持ちよく死ねるかです。そのくらいの”すっからかん”で、これからも挑んでいこうかなって」 PROFILE 瑛人 シンガー & ソングライター 1997年神奈川県横浜生まれ。2019年4月に『香水』を、デジタルEPにて初めてリリース、2020年春にSNSを中心に多数のカバー動画がアップされて話題を呼び、爆発的ヒットにつながる。YouTubeでの再生回数は、1億回以上。2021年1月1日にデビューアルバム『すっからかん』をリリースし、2021年1月31日に限定有観客&配信ライブを予定している。
文・速水健朗