ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の金銭的課題。日本のアートシーンが国際的に存在感を示すために必要なこととは?
日本館は何を目指していくのか、質的な展開を考える
これまでは金銭面の課題をフォーカスしてきたが、「日本館にはもともと恵まれた状況がある」と語るのは蔵屋だ。 「なによりよいのは、メイン会場のひとつであるジャルディーニ内に恒常的なパビリオンがあることです。19世紀末から20世紀前半の世界秩序を反映し、ヨーロッパ諸国を中心とした館が立ち並ぶジャルディーニ内に、東アジアとしては日本と韓国のみが施設を有しています。他のアジア、アフリカ、南米、中東などの新興諸国・地域が、毎回苦労して島内に貸会場を探し、しかも観客が足を運ぶ確率はぐっと下がるという状況に苦戦していることを考えると、このメリットは本当に大きいです」 その有利性を生かしたうえで、日本館としてどのような作品をプレゼンテーションしていくか、その戦略には改善の余地があると続ける。 「アーティスト選定の戦略がいまひとつクリアではない点は改善の余地があると感じます。各国館は、表向きそれぞれの基準で自由にアーティストを選んでいるように見えますが、じつはその回のディレクターの関心事、あるいはその時点のヨーロッパ地域の関心事を敏感に読み取って展示を決めています。あくどいとも言えますが、逆に、こうしてビエンナーレ全体で行われる創造的な対話に参加しているとも言えます。この事情を踏まえず、“日本からはいまこの人を推したい”というだけでアーティストを選ぶと、日本館だけがなんとなく全体から浮いた感じになってしまいます。そこはもう少し冷静に議論してよいと思います」 こうした質的議論は今後行われていく必要があるだろう。最後に毛利は、国別の課題、制度を超え、ヴェネチア・ビエンナーレがジャルディーニを中心とする1国家(地域)1パビリオン制度であること自体に懐疑を投げかける。 「今回のキュレーター選択によってもその点(1国家[地域]1パビリオン制度)への違和は明らかにしたつもりですが、それでもこの機会に参加することでしか得られない経験があり、それを経験できたことをとても光栄に思っています」 日本がヴェネチア・ビエンナーレで日本館を建設し、美術展に継続参加をするにようになってから70年を迎えるが、これまでその内実について積極的に取り上げられることはなかった。質的議論、そして金銭的課題を両輪で進めていくことでしか実現しえない状況があるのではないだろうか。今回の記事をそのスタート地点としたい。 *1──公式ウェブサイトより https://www.jpf.go.jp/ *2──日本経済新聞「ベネチア・ビエンナーレ報告(下) パーティーは遊びじゃない 人脈形成へ官民で支援を」https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82687770Z00C24A8BC8000/
Chiaki Noji