ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の金銭的課題。日本のアートシーンが国際的に存在感を示すために必要なこととは?
ファンドレイズの必要性、国際交流基金の見解
これまで日本館のアーティストは予算不足分を自費で対応するという対応を行ってきたケースも少なくない。毛利は各国館の状況を踏まえ、今後、日本館を主催する団体がファンドレイズを仕切ることを期待する。 「ファンドレイズを実施することになり、普段から懇意にしていただいていた日本の重要なコレクターのひとりである大林剛郎さんにまずは私からお声がけしました。きれいごとのようですが、今回の私の機会をサポートしてもらいたい思いももちろんあるけれど、これから日本館にリプレゼントされるアーティストたちが充分に表現活動できるような環境づくりをあらゆる方法で整えていったほうがいい──本当にそう思っていました。コレクター個人に作品を購入してサポートしてもらう方法もありえたけれど、大林さんに音頭を取っていただいて、国際交流基金の口座への寄付を募ったのは、そういう理由からでした。とはいえ結局、今回は国際交流基金からは口座を提供してもらっただけで、具体的にはほとんど私サイドが動くことになりました。ファンドレイズのプロフェッショナルの助言をいただきつつ、私が所属するYutaka Kikutake Galleryの菊竹さんが実務を担ってくださりました。おかげさまで大林さん、牧寛之(株式会社バッファロー 代表取締役社長、anonymous art project)さんをはじめ、海外からのご支援も含むたくさんの方々からご協力をいただくことができ、ファンドレイズされた金額の9割以上が国際交流基金の口座に入ったのですが、実務をしてくださった菊竹さんに対して国際交流基金から謝礼はありませんでした。もしかすると日本の公共機関では、ファンドレイズがプロフェッショナルな仕事であるという認識がまだ受け入れられていないのかもしれません。 予算ありきで作品の良し悪しが決まるとは私はまったく思いませんが、予算によってアーティストの発想が縮小してしまうのはもったいないことです。少なくとも、他国と比較して5~10分の1程度の予算組みで、世界で最も有名な国際展の展示をしなければならない前提というのは、参加アーティストはそれだけで最初からビハインドを背負うことになります。日本館のプレゼンス向上のために、展覧会主催者であればこそ実現できることがあるはずです。むしろこれまでの経験を糧に、国際交流基金には次回以降もファンドレイズなり別の手段なりで、ビエンナーレの予算調達の経験を積んでいただけたらと願っています」