約120万人が感染?北朝鮮があまりに突然「感染大爆発」を公表した意味、食糧難の季節に起きた超緊急事態
北朝鮮では2年間にわたり新型コロナウイルス感染症の流行を抑えてきたが、ここへきて政権側も驚きを隠せないほどの勢いで爆発的に感染が広がっている。 北朝鮮の公式発表によると、感染爆発の中心地は首都平壌である。当局は感染拡大を食い止めるのに奮闘しており、全国的なロックダウンを命じている。4月下旬に流行し始め、発熱者の数は5月16日までに120万を超え、これまでに50人が死亡。5月14日から1日で感染が疑われる発熱者の数は約39万人に達し、1日で10万人以上増えている。現在世界中を襲っている感染力の強いBA.2オミクロン変異株による死者も、少なくとも1人、おそらくはそれ以上かと思われる。
■すでに「非常に脆弱な状態」の地域 北朝鮮の新型コロナの検査能力は非常に限られているため、公衆衛生の専門家はこのデータを慎重に取り扱っている。公式の発表資料には「発熱」 の発生だけが記載されており、これはウイルスに起因している疑いがある。 ただ、エジプトの公衆衛生専門家であり、過去20年間、世界保健機関(WHO)とユニセフのために、北朝鮮で広範囲にわたり研究を行ってきたナギ・シャフィク医師は、「(感染拡大は)確認されていることではない」と念を押す。
とはいえ、感染拡大が、多くの人道支援の専門家が「非常に脆弱」と呼ぶ状況の中で起こっているとしたらそれは深刻だ。医療機関は時代遅れの機器しか備えておらず、医薬品などモノも、電気など必要なインフラも足りていない。「医療機関はそうした緊急事態に耐えられる設備を持っていない」とシャフィク医師は語る。 しかもこうした状況は深刻な食糧難による栄養失調や、経済制裁、新型コロナによる国境封鎖などいくつもの負の要素が重なっているところで起こっている。「多くの人はすでに身体的に脆弱だ」と、ある人道支援家は話す。「誰もが深刻な事態に陥りやすい状況にある」。
北朝鮮は2020年1月から、中国の政策を模した「ゼロコロナ政策」を行っており、厳しい国境封鎖と隔離政策によってこれまで新型コロナの発生を抑えてきたとしている。北朝鮮は中国や韓国、世界的なワクチン供給の枠組みCOVAXからの支援を断り、ワクチンを実施していない世界で数少ない国だ。 「感染抗体がなく、ワクチン接種もしていない北朝鮮の人々はウイルスに対してとてつもなく脆弱だ」と、3月に発行された戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は指摘していた。「感染爆発が起きた場合、短期的には解決策はない」。専門家の1人は、北朝鮮での感染拡大によって約16万人が命を落とす可能性があると指摘していた。