コロナ消毒「トンデモ実態」と過酷労働で燃え尽き退職、元ひきこもり男性の証言
30代後半の元ひきこもり男性が2020年12月末、ようやく就職した清掃会社を退職した。適切な装備品の用意がないまま、会社が危険な新型コロナウイルスの消毒の依頼ばかり受けるようになった。そして、過剰勤務を強いられる中で終え尽きて体調を崩し、「もう無理」と会社を後にしたのだ。男性は「就労意欲があっても、会社が利益を優先して従業員の健康に配慮しない環境で働き続けるのは難しい。社会との乖離を感じた」と明かしている。(ジャーナリスト 池上正樹) ● コロナ消毒は単価がいい 清掃会社は前のめり コロナ消毒の過剰勤務に恐怖を感じ、体調を崩して勤務先の清掃会社を辞めたのは、関東地方の清掃会社に勤めていた30代後半の佐々木さん(仮名)。 元々、佐々木さんは、大学時代の就職活動でどこも受からずに実家で2年ほどひきこもった。 しかし親は何も言わず、「好きなことをやったらいい」とお小遣いを出してくれた。そこで本を買ったり、図書館に行ったりして、1日に3冊ずつのペースでずっと読書を続けていた。本を読むうちにだんだんひきこもることに飽きてきて、知的好奇心に突き動かされるように「そろそろ外に出ようかな」と思った。 今の仕事に就いたのは、「本の中で好きなことに出合い、お金が必要だと思った」からで、そのとき、ずっと見守ってきた「親も応援してくれた」からだと話す。 佐々木さんが入社した清掃会社では、それまで施設やビルなどの清掃業務を行ってきた。ところが、2020年にコロナの感染が拡大すると業務内容は一変。施設やオフィスのコロナ消毒業務に追われるようになった。 「コロナ消毒は単価がいいので、会社としては利益が出るわけです。個人的には感染リスクが高いのでやりたくない仕事でしたが、やる羽目になりました」(佐々木さん)
● コロナ消毒の現場に駆け付けたら 事務処理のおじさんが普通に仕事中 その後、連日連夜、何件もコロナ消毒の仕事を入れられた。職場内の人がよく触る場所を拭いたり、床などを消毒したりした。 「消毒してほしい」という依頼がどんどん来る。「科学的根拠よりも、消毒業者が来て措置してくれたことに依頼する企業は安心感を求めていた感じがします。対外的な説明にもなる。会社としての体裁もあるのでしょう。僕が勤めていた清掃会社は、ここぞとばかりに消毒していました」(佐々木さん) 20年4月以降、コロナの陽性者や濃厚接触者が続々と出て、いろいろな業態の現場から消毒依頼の電話がひっきりなしにかかってきた。 「実際に依頼を受けて消毒に行ってみたら、事務処理をしているおじさんとかが職場に普通にいるんです。こっちは防護服を着て駆け付けているのに、えっ?立ち入り禁止じゃないの?って驚きました。そういう緊張感のない、よく分からない曖昧な現場で消毒していました」(佐々木さん) その防護服も、夏場の間は体感気温が「50度くらい」。空調も付いてない環境でずっと消毒作業をしなければいけない。夏場は本当に過酷だったという。 「厚生労働省は有効なコロナ対策に関するエビデンス(科学的根拠)を出していますが、実際の現場でそれが実行できているのかについては疑問でした。実際、防護服もマスクも手袋も手に入りにくい時期がありましたし、消毒作業に行くときは感染症用の防護服を着ているわけではない。アスベスト対策で使われるような、通気性のある紙のような防護服でした」(佐々木さん) しかも、消毒に出掛ける従業員には、形骸化した体温測定があるだけでPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査も義務付けられていなかったという。 「同僚に感染者が出たという話は聞いていません。しかし、原因不明の熱が出た人はいました」(佐々木さん)