新車で買える「80年前のクラシックカー」エアコン・エアバッグだって付け放題! どういうこと?
新車で買えるクラシックカーなのに現行モデル? しかもレストア車でもレプリカでもない!?
1930~1950年代のクラシックカーが新車で買える、しかもレストア(復元)車ではなく、レプリカでもない正真正銘の本物の新車が……。そんなハナシ、ご存じでしょうか。 【写真】アルヴィスが開発した「異形」6WD戦闘車両たち 嘘みたいに思えますが、じつはイギリスの高級車アルヴィスがそれに該当します。同車は2012年に復活したのですが、現在生産中のモデルでありながら車検証に記載される年式は「1937年型」もしくは「1964年型」となります。 しかも、内外装は往時の雰囲気を残したクラシカルなものですが、オーナーの好みでエアコンやパワステ、シートベルト、エアバッグなどの最新式の快適・安全装備をオプションで選ぶことまで可能です。 そもそもアルヴィスとはどのようなメーカーなのでしょうか。簡単に解説すると、その前身はトーマス・G・ジョンが1919年に創業した産業エンジンなどを製造する「TGジョン&カンパニー」です。同社は1920年に自動車製造へ参入、初の市販車となる「10/30」は、アルミピストン採用の1.5リッター直列4気筒サイドバルブエンジンを搭載。その高性能から富裕層を中心に人気を得ました。 このクルマの成功により1921年に社名を「アルヴィス・カー&エンジニアリング・カンパニー・リミテッド」に改めると、1923年にはドイツのダイムラー(現メルセデス・ベンツ)からG・T・スミス=クラークを技術者として引き抜きます。ちなみに、主任設計者には一緒に移籍したウィリアム・Mが就任しました。 彼ら優秀なスタッフが参入したことにより、アルヴィスは「12/40」や「12/50」、イギリス初のFF(フロントエンジン前輪駆動)車となる「12/75」などを発表。1925年の「インディ500」や1928年の「ル・マン24時間耐久レース」などの国際レースには、FFレーシングカーで参戦し、大いに活躍を見せました。
第二次世界大戦の影響で1960年代に乗用車市場から撤退
こうして、アルヴィスは1930年代に高級車メーカーとして確固たる地位を築き上げますが、第二次世界大戦の勃発により、政府によって戦争終結まで乗用車の生産が禁止されてしまいます。しかも、1940年11月には、ドイツ軍の空襲、いわゆるコヴェントリー爆撃で工場も半壊してしまいました。 戦後、戦前モデルをベースにした「TA14」で自動車の生産を再開したアルヴィスでしたが、戦後復興で高級車市場は縮小しており、製品の売れ行きは鈍化しました。その結果、戦後モデル「TA21」の発表は1950年までずれ込み、以後はこのモデルの改良でしのぐことになります。こうして戦前の隆盛を取り戻せぬまま、1965年にはローバーに吸収され、さらに1968年の国営企業ブリティッシュ・レイランドにローバーが参加したのを機に、乗用車市場から姿を消しました。 しかし、乗用車生産の撤退から41年後に復活の機運が立ち上がります。2009年、アルヴィスのスペシャリストによって設立された「レッド・トライアングル」社が商標を買い取ると、「コンティニュエーション(継続)・シリーズ」と銘打ち、1937年から73年間の中断を経てアルヴィス「4.3リッター」の生産を再開したのです。 2024年現在、アルヴィスではこれに続いて、1950年代の「3リッター」も「コンティニュエーション・シリーズ」として生産を再開しており、今後はモデル数を5種類まで拡大することを発表しています。 とは言え、1930~1960年代の乗用車は、現代の安全基準や保安基準を満たしておらず、これらアルヴィス車はせっかく生産しても登録ができず、公道を走れないと思われるかもしれません。 しかし、心配はご無用。生産国のイギリスはもちろん、日本でもナンバーを取得して公道をドライブできるのです。