トランプvsハリス、弱い候補同士の大接戦!【前嶋和弘の2024アメリカ大統領選、深層ウォッチ】
■トランプは思った以上に「弱い候補」だった なぜ、トランプが「弱い候補」なのでしょうか? その理由はトランプが依然として「自分の支持層」しか固めることができていないからです。そうした傾向は今回の大統領選に関する世論調査のデータにも表れています。 例えば、バイデン撤退の引き金にもなった6月末のテレビ討論会ですが、その結果、トランプのリードが大きく広がったのかというと、そんなことはありません。討論会の直後、トランプのリードは世論調査で3ポイント程度しか伸びませんでした。 この傾向は7月13日にピッツバーグで起きた「トランプ銃撃事件」や、トランプが正式に共和党の大統領候補に指名された「共和党全国大会」の後も同様です。そうしたイベントがある度に世論調査ではトランプのリードは3ポイント程度伸びるのですが、それ以上に伸びることはなく、民主党の候補がバイデンからハリスに代わると、逆に2ポイントのリードを許しました。 ちなみに、アメリカ大統領選では一般的に「挑戦者」が有利と言われています。例えば4年前の大統領選でも、チャレンジャーだった民主党のバイデンが現職のトランプに対して6、7ポイントのリードを保っていました。しかし、その差は投票日に近づくにつれてどんどん縮まり、最終的には大接戦になるという展開でした。 この前回の大統領選と比べても、挑戦者であるトランプのリードは小さく、その傾向は「バイデンが自滅した」と評価されたテレビ討論会や、ショッキングな銃撃事件を経ても大きく変わりませんでした。これは、候補者の評判を大きく左右するようなイベントや事件が起きても、それが「既存のトランプの支持層」以外には大きな影響を与えられていないことを示しています。私が「トランプは弱い候補」だというのは、そのためです。
■アメリカの未来は「政治に無関心な5万人」が決める? もちろん、「弱い候補」という点では、バイデンに代わって民主党の候補になったハリスもまた同様です。今回、民主党の予備選を戦っておらず、バイデン政権の副大統領を務めたこの3年半を通じて、ほとんど存在感を示すことができずにいた彼女への評価は、あまり高くありませんでした。 しかし、撤退したバイデンに代わり、ハリスが正式に民主党の大統領候補に選ばれて以降は、もともとの「期待値」が低かったこともあり「ハリス、意外と悪くないね?」「やっぱりマトモだし、バイデンより若い分いいかも」と、民主党支持者の中では比較的ポジティブな評価が増えてきた。 9月に行なわれたテレビ討論会もまずまずの評価でしたし、女性初の大統領を目指す人種マイノリティ系(アフリカ系とインド系)であることなどが、彼女にとって一定の「追い風」になっているのも事実ですが、それも世論調査の支持率を見る限り限定的で、こちらも「ハリス旋風」のようなものが吹き荒れているわけではありません。 つまり、トランプもハリスも、大統領選を大きく動かすほどの「風」を吹かす力はない。ふたりとも、元からあった自分たちの支持層を固めているだけの「弱い候補」でしかなく、分断と拮抗によって真っ二つに切り裂かれた今のアメリカ社会を背景にした「弱い候補同士の戦い」という意味では、トランプvsバイデンの戦いだったときの構図とまったく変わっていないし、そもそも大多数の州では共和党寄りか民主党寄りかで勝敗が見えているので、それが変わることもありません そうなると今回も、いわゆる「激戦州」と呼ばれる、ネバダ(選挙人6人)、アリゾナ(選挙人11人)、ウィスコンシン(選挙人10)、ミシガン(選挙人15)、ペンシルベニア(選挙人19人)、ノースカロライナ(選挙人16人)、ジョージア(選挙人16人)の勝敗が勝負の行方を左右することになるはずです。具体的に言えば、そうした激戦州の中でも、政治に無関心で投票に行かない無党派層の票を、両陣営がどこまで掘り起こせるかが、鍵を握っているといえます。 そのため、共和党、民主党の両陣営はSNSやクレジットカードの支払い履歴などを通じて、大量の個人情報を収集・分析して、対象となる無党派層を特定しようとしています。AIも活用しながら、その人たちの所得水準や人種、宗教、家庭関係、趣味や嗜好などに合わせた「マイクロターゲティング」という手法を用いて、最後の票の奪い合いを続けているのです。 先日、私が話した民主党陣営の関係者は「最後に勝負の鍵を握るのは5万人程度になる」と語っていましたが、それは人口約3億3000万人を抱えるアメリカ合衆国と、そのアメリカの影響を否応なしに受ける世界の未来を、激戦州に住んでいるたった5万人の「政治にも選挙にも無関心な人たち」が決めてしまうかもしれないという現実を意味しているのです。 構成/川喜田 研 写真/AFP=時事