辰吉寿以輝が左拳を痛めても無傷の12連勝。対戦相手に「頬が骨折しているかも」の代償
まだ22歳。なのに情熱と冷静の使い分けができていた。6ラウンドからは、再び「アドレナリンが出て痛みを忘れた」という左のジャブを使って自分の距離をとりショートの連打に切り替えて突破口を開こうとしたのである。角度を変えたパンチをワンツー、スリー、フォーまで繰り出す。左のトリプルブローもあった。7ラウンドには左目上をカットさせた。だが、そのキャリアで、KO負けが、先日、山中慎介バンタム級トーナメントの1回戦を勝ち上がったアマエリートの中嶋一輝(大橋)との6回終了TKO負け1試合だけという藤岡のタフネスもあって倒せないまま8ラウンド終了のゴングを聞いた。 寿以輝に笑顔はなかった。読み上げられたジャッジは「77-75」、「78-75」、「79-74」の危なげない3-0判定勝利だったが、レフェリーに右手を挙げられてもアクションは少ない。 「ダメダメですね。2戦連続で早く終わらせているので狙いすぎた」 途中ラフに攻めすぎて何発かの危険な被弾もあった。 「あれで相手にパンチがあったら倒されていますよ」 そう反省するほどの消耗戦を戦いきったのである。 リングサイドの最前列から辰吉ファミリーが見守っていた。父の丈一郎、母のるみ夫人、長男の寿輝也、寿以輝の妻の優さんは長女を膝の上に。辰吉は「点数はつけれんけど、手を痛めて勝ったんやからよかったんちゃう」と珍しく合格点を出した。 だが、辛口のレジェンドから注文がないわけがない。 「藤岡君はよく研究しとったね。根性で立っていた。なぜ倒せなかったか? あれではフィニッシュでけへんよ。連打は打ったが、コンビネーションは打てなかった。その違い。強弱やね。パンチの強度を1から10とすれならば、8や9でずっと打っていた。それが連打。慣れるんよ、そんなパンチは。そこに3とか、4とか、6を使いわけると、9のパンチが生きるんやけどな」 実は、藤岡も試合後に同じことを言っていた。 「もし強弱をつけられていたらやられていた」 藤岡の所属ジム「VADY」の松岡剛志会長は寿以輝の進化を指摘した。 「勝てると考えていたんですが、強くなっていますね。パワーボクシングなので、パンチの打ち終わりに中に入ってボディにパンチを集める作戦でした。パワー負けせずに実際、それができていたんですが、途中から細かいパンチに切り替えてきました。ああいうことができるとは。冷静でしたね」 途中、一発狙いをやめて、力を抜きショートの連打に切り替えてきた対応力が想定外だったという。辰吉丈一郎が言うように、強弱をつけれるようになれば、さらに、もう一段階、上へいくだろう。 辰吉は、さらに「もっと言えばジャブがない。ジャブには、ストッピングジャブ、突き放すジャブ、カウンターのジャブと、いろんな種類があるんやけど、拳を痛めているから手を出すことしかできんかった。リズムも狂わせられんから相手は出てこれる。もっとキャリアを積めば、足を使うこともできたんやろうけどな。まだそこまでの知識がない」とも言った。