この国には「人手が全然足りない」…賃金と物価が上がる日本経済はこれからどうなるのか
エッセンシャルワーカーの仕事と機械化・自動化の進展
日本経済が人口減少局面を迎える中、一人ひとりの生活者がいまよりも豊かな暮らしを送ることができるかどうかは、物価や名目賃金の行方ではなく、あくまで生産性が上昇するかどうかで決まる。 労働の生産性を向上させるには、二つの方向性が考えられる。 第1には、労働のインプットを維持もしくは拡大させる中で、それを上回る規模の付加価値額の拡大を達成するという方法である。 第2に、付加価値の総額を維持もしくは拡大させながら、労働投入量を減らしていくという方向性である。 生産性の上昇といって多くの人がイメージするのは前者の経路とみられる。実際にこれまでは人口規模が増加していくなか、拡大再生産を志向することは世界の経済の常識であった。あるいは技術革新が失業を発生させないためにも、供給能力を向上させるとともに新たな需要をいかにして喚起するかということが、これまでの経済においてはしばしば論点になってきた。 しかし、今後の日本経済が進むべき道がこれまでとは異なるものになることは明らかである。今後の日本経済においては、人口減少や超高齢者の増加に伴い、医療・介護サービスなどの分野を中心に慢性的な超過需要を経験することになるとみられる。構造的な人手不足が進む今後の日本経済においては、失業者の増加を心配するよりも、供給能力の上昇が需要の拡大に追い付かないことを心配しなければならない。 そう考えれば、人口減少経済においては、より少ない人手で効率よくサービスを提供するという考え方が支配的になっていくはずである。少ない人手で効率的に生産する体制を整えるためには、これまで人が担ってきた仕事を機械などによって代替し、自動化をしていく必要がある。 機械化・自動化を進めるために鍵を握るのは技術の動向であるが、近代において、テクノロジーが経済の効率性に貢献してきた領域はもっぱら製造業が中心であった。あるいは1990年代以降、IT革命が浸透したことによって情報通信業の生産性は高まり、事務職などホワイトカラーの業務効率性は大きく向上してきたと考えられる。 しかし、現代において人々が需要している多くのものはサービスなのである。ではサービスの領域で、はたして生産性は上昇しているか。 たとえば運輸関連のサービスについて、近年、ドライバーの運輸技術水準が向上してより多くの物品を輸送することは可能になっただろうか。あるいは、介護の仕事に従事している人の技能が向上し、より多くの介護サービスを利用者に提供できるようになっただろうか。 現代において需要が高まっているこれらサービス分野の多くは、近年の技術水準においては生産性を上昇させる余地が少なかったことから、需要の高まりに対して生産能力の上昇が追い付いていない状況にある。その結果として、現代の労働市場においては、サービスを直接提供する現場の労働者の人手が慢性的に不足している。 今後の日本の経済成長にとって重要になるのは、これまで仕事の効率化が難しかった領域である運輸や飲食・宿泊、医療や介護などの労働集約型産業の業務をいかに高度化していくかということになるだろう。 いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれているようなこれらの仕事について、AIやロボティクスを活用したオートメーションがどこまで広がっていくかが、今後の日本経済の行方を大きく左右することになるのである。