【夢に見るほど欲しい】アルピーヌA110 美しさと軽さ、しなやかさ 2020年ドリームカー 英国選
軽く控えめなパワーが生み出す楽しさ
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治) 2017年末のこと。雪深いフランス奥地の丘陵地帯で、真新しいアルピーヌA110と出会った。スポーツカーというカテゴリーに、新鮮な空気が吹き込まれた瞬間だった。 【写真】ベストはベースモデル アルピーヌA110とA110 S (71枚) 発表から3年が経過した2020年でも、その新鮮味に陰りはない。小さなフランス製スポーツカーは、今もわれわれの心を掴んでやまない。 A110の最大の魅力は、路面やドライバーとの柔軟な呼吸。多くのスポーツカーで落ち着きがなくなり、かき乱されるような路面でも、アルピーヌは滑らかに進む。 しなやかに動くサスペンション。岩のように硬いスプリングだけが、ドライビング・ファンを生み出すわけではないということを証明した。近年のスポーツカーでは見られない味付けだ。 そのしなやかさを許しているのが、A110の軽さ。アルミニウム製のアーキテクチャを基礎とし、エントリーグレードなら1103kgしかない。全長は4.1m、全幅は1.8mを超えないほどコンパクトでもある。 シートは2脚で、サスペンションは4輪ともにダブルウイッシュボーン。フロント・サスペンションの間に燃料タンクが収まり、ルノー製モデルから譲り受けたエンジンとトランスミッションが、ドライバーの後ろに載る。パッケージングも素晴らしい。 軽量でありながら、インテリアは上質。クラス・ライバルを、凌駕している。 パワーも充分。252psの最高出力と加速感は、公道で存分に楽しめる範囲にある。高速道路でも、深刻な速度違反を犯す心配は少ない。クルマの限界値が低いほど、一般的なドライバーはパフォーマンスを引き出しやすくなる。
シャープで硬い足のモデルとは違う存在
アルピーヌA110はサーキットでも楽しい。タイトコーナーでわずかにドリフトしながら旋回していくのは、至福のひとときだ。 反面、高速コーナーや強い横風が吹いた時の安定性は、少ない弱点の1つ。LSDの装備で改善するという意見もある。それでも、パワーと重量とのベスト・バランスは、弱みを超えるほどに素晴らしい。 2019年に登場したA110 Sは、より引き締められ、より多くのパワーを得ていた。ライバルの一部に接近するために。 多くの場合、ハイパワーな仕様は、ベースグレードを霞ませてしまう。特に英国では、その傾向が強い。A110 SがベースのA110をはるかに超える割合で売れるとは、アルピーヌも想像していなかっただろう。 A110 Sは、間違いなく素晴らしい。ベースのA110を体験していなければ、絶賛したかもしれない。でも、シャープで足が硬い、サーキット・フォーカスのマシンなら、ほかにもある。アルピーヌA110は、それらとは違う存在として生まれてきたのだと思う。 ■審査員コメント Steve Cropley(スティーブ・クロップリー) 2つの比類ない特徴が、A110へ栄光を与えた。1つは、個性のためにアグレッシブさではなく、美しさを重視したという点。 もう1つは、ほかの主要メーカーが真似しないような方法で、正真正銘の輝きを生み出したという点。ルノーという存在が、アルピーヌの根底にはある。 この2点が、ユニークさを生んでいる。どんな人が見ても美しく、正確で機敏に運転できる。控えめなパワーでありながら、充足感の高い速さが得られる。アルピーヌが導き出した、大成功だ。
AUTOCAR JAPAN