関西大などが開発の超小型衛星、ISSから放出–軌道投入に成功
関西大学や福井大学などが開発した技術実証衛星「DENDEN-01」が国際宇宙ステーション(ISS)から日本時間12月9日に放出され、軌道投入に成功した。11月5日にSpace Exploration Technologies(SpaceX)にISSへの補給ミッション「CRS-31」として補給船「Cargo Dragon」で輸送された。 DENDEN-01は1Uサイズのキューブサット。太陽電池パネルを展開したときの大きさは309mm×210.7mm×113.5mmで重さは1.32kg。関西大学や福井大学、名城大学、アークエッジ・スペース(東京都江東区)の4者が共同で開発した。 主要ミッションは電源温度安定化デバイスの軌道上実証。気体や液体、固体という物質の状態が変化する相変化に必要な熱エネルギーを利用した蓄熱技術である「潜熱蓄熱材」(Phase Change Material:PCM)は一般的に液相と固相の相変化に伴う潜熱で温度を一定に保つことができる。 しかし、液漏れや揮発を防ぐために専用の容器が必要となり、質量や体積の制限が厳しいことから衛星などには不向きとされている。 DENDEN-01には、固体の結晶構造が温度変化で変わる相変化で発生する潜熱を利用できる二酸化バナジウム(VO2)系の「固-固相転移型潜熱蓄熱材」(SSPCM)を電源ケースとして活用。電源の温度変化を緩和して安定した電源性能を実現することが期待されている。関西大学と新日本電工(東京都中央区)が共同で開発した。 DENDEN-01の外装には、キューブサットに最適化された太陽電池ガラスアレイシートが設置されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM」と同型の太陽電池セルが使われている。超小型衛星の分野でJAXAが開発した衛星以外では今回が初という。 DENDEN-01の上面には、ペロブスカイト太陽電池モジュールを搭載。リコーが開発したペロブスカイト電池モジュールをベースに宇宙環境でも動作するように改良されている。今回の軌道上動作試験では関西大学、リコー、JAXAの3者で実施する。 DENDEN-01は、福井大学 産学官連携本部とセーレン(福井県福井市)が共同で開発した学習用超小型衛星「EDIT」をベースに開発された。EDIT(Educational satellite for Idea and Technology)は新規に衛星開発に参入する大学や企業に実践的な衛星開発技術を習得してもらうために開発された「宇宙で動く」衛星教材。 DENDEN-01は、EDITに展開型太陽電池パネルやS帯通信機を搭載するなどの機能を追加してフライトモデルにアップグレードした。 組み立てや試験は、福井大学と福井県、ふくい宇宙産業創出研究会などが進めているEDITを活用した教育プログラム「人工衛星設計基礎論 2022」で進められた。 同教育プログラムには、関西大学や福井県内の企業らが参加し、衛星の基礎からキューブサットの組み立て、電気試験、機能試験、環境試験などを学んだ。エンジニアリングモデルやフライトモデルの開発と並行し、JAXAの安全審査で求められる数々の試験や通信試験など実機を活用した新たな教育プログラム「人工衛星設計基礎論 2022 フェーズ2」を実施した。 アークエッジ・スペースは、DENDEN-01で地上との通信を担当。静岡県内の3.9mのパラボラアンテナと東京電機大学が所有する3mのパラボラアンテナで通信する。アークエッジ・スペースが開発した920MHz帯小型省無線通信でのバックアップ通信の機能を検証、地上に設置した省電力無線通信機を活用したセンサーデータを衛星経由で取得する(ストアー&フォワード技術)実験を検証する。 DENDEN-01は、JAXAと非営利活動法人の大学宇宙工学コンソーシアム(University Space Engineering Consortium:UNISEC)で公募された「J-CUBE」プログラムの2021年度打ち上げ枠に採択された。 ISSの日本実験棟「きぼう」にある「小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)」から放出された。J-SSODは、キューブサット規格の衛星や50kg級の超小型衛星をきぼうのエアロックから搬出して宇宙に打ち出して軌道に乗せるための仕組みだ。 関連情報アークエッジ・スペースプレスリリース(PR TIMES)DENDEN-01プロジェクトJ-SSOD放出中継動画関西大学プレスリリース(6月発表)
UchuBizスタッフ